【実施報告】2023年度ESD-J主催 オンラインセミナー
ESDとジェンダー ~北九州の事例を基に、ジェンダー平等に向けたESDの可能性を探る~
開催:2023年12月16日(土)13:30-15:30
司会:北九州ESD協議会 川島 伸治さん
講師:東筑紫短期大学名誉教授 花崎 正子さん
参加者:21名(司会1名、講師1名、事務局3名含む)
プログラム
冒頭挨拶、趣旨説明 三宅博之ESD-J理事
話題提供 花崎 正子さん
3つのテーマについての発表
① 主権者教育について(北九州ESD協議会・服部 祐充子さん)
② ジェンダー会員対象アンケート(北九州ESD協議会・後藤 加奈子さん)
③ 韓国のクオーター制(三宅理事)
意見交換
まとめ
本セミナーは、北九州市(地域)や北九州ESD協議会の会員が実施してきた活動事例を参考にジェンダー平等にむけたESDの可能性を探るというテーマで開催されました。
冒頭に、九州地方担当・三宅博之理事より、本セミナーの開催趣旨が説明されました。本セミナーは、北九州ESD協議会の調査研究国際プロジェクトのメンバーで、同テーマに関心のある人が調査・研究を行い、発表をするということになりました。北九州は環境分野の活動が有名ですが、その原点は公害克服運動の婦人会の運動です。アジア交流研究フォーラムを創設し、ジェンダー平等にも積極的に取り組んできています。2006年に北九州ESD協議会(RCE北九州)が設立されましたが、創設者は2名の女性でした。
また、北九州ESD協議会の会員が主権者教育や韓国との交流に積極的に取り組んできたという経緯もあり、今回ジェンダーと関連して①主権者教育、②北九州ESD協議会の会員対象に実施したアンケートの結果、並びに③韓国におけるジェンダー平等への取り組み(クォーター制)、という3つのトピックを取り上げました。申込みを受け付けた際には、3つのブレークアウトルームに分かれて①②③のトピックについて、意見交換をする予定でしたが、参加者の人数等を踏まえ、グループに分かれずに全体で発表を聞き、議論をすることになりました。
続いて、講師の花崎 正子さんに以下のタイトルでご講演頂きました。
ESDとジェンダー~ジェンダー平等に向けたESDの可能性を探る~ (花崎 正子さん)
まず、ESDの定義や基本的な考え方とジェンダーの関係について、加えて、なぜ今、ESDを取り上げる必要があるのかについてご説明頂きました。日本では、気候・社会的ティッピングポイントなどグローバルな問題への認識が低いですが、こういった問題にもっとセンシティブでなくてはならず、今回のセミナーを私たちの感性を磨く、お互いをブラッシュアップする機会としたいという思いで講師として参加されたということもお話し頂きました。
次に、ESDの歴史的背景、ESDとSDGsの関係について説明されました。三宅理事が先程述べられたように、北九州では女性の活動が活発で、始めはジェンダーを意識した活動ではなかったのですが、結果的にはジェンダー平等に繋がっていったという経緯があります。
次に日本のジェンダーの現状について、各国における男女格差を測るジェンダー・ギャップ指数(Gender Gap Index:GGI)のデータを基にご説明いただきました。GGI ジェンダー・ギャップ指数とは、世界経済フォーラムが、経済、教育、保健、政治の分野毎に各使用データをウェイト付けしてジェンダー・ギャップ指数を算出しています。0が完全不平等、1が完全平等を表しています。
教育分野について日本は、2022年は1.000と完全平等のスコアでしたが、2023年に高等教育の項目が反映された影響でスコアが下がっています。進路、コース選択が女性、男性に偏りがあること等がその原因です。
日本のGGIスコアは横ばいですが、他国のスコアが上がったために、昨年よりも順位が下がっています。日本で改革がなされていないわけではありませんが、他国よりもスピードが遅いことがスコアに表れています。
アイスランドがジェンダー・ギャップ指数連続1位ですが、その理由については、以下が例として挙げられました。
🧩個人主義が強い。(個人を尊重するという意味。)婚姻でも姓の変更がない。
🧩就労環境においても男女平等との共通認識がある。育児休暇制度の充実、女性が働くのは当たり前でその環境が整っている。
🧩政治におけるジェンダー平等(議員の数が男女ほぼ同数)。
🧩基本的人権の尊重が男女平等のベース。女性だけでなく、全ての個人の権利を尊重する。
必要なのは意識改革であり、男女格差のある社会は男性にとっても不幸です。不平等を感じたら我慢をせずに声を上げるなどアクションを起こすことが必要です。自分だけが良くなるためではなく、隣人、周りの人が良くなるという意識をすることも重要です。
◆参考:在アイスランド日本国特命全権大使の鈴木亮太郎さんへのインタビューhttps://www.vogue.co.jp/article/gender-equality-in-iceland
続いて、女性の労働力の推移、日本と諸外国の出生率の推移について説明されました。女性の労働率が高くても出生率が高い国が多い中、日本では、労働率が低いうえに出生率も低いというデータが示されました。女性の労働率が上がったら、出生率は上がらないとは言えないことがこのデータから読み取れます。
日本とアメリカ・オランダ・ノルウェーの社会環境指標の比較の図からは、日本は他国と比較して、1.仕事と生活の両立の可能性、2.子育て支援の充実度、3.ライフスタイル選択の多様性のどの面でも環境整備が不十分で、条件を整えない限り女性の労働力率も出生率も上げることは難しい状況です。
◆出典:https://www.gender.go.jp/kaigi/danjo_kaigi/siryo/pdf/ka20-1-1.pdf
諸外国の国会議員に占める女性の割合について、日本と韓国を比較すると、韓国の方が女性議員の割合が高いです。その理由については後程、三宅理事から説明されます。
◆出典:https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo01-03.html
生活時間の国際比較の国別のデータを見ると、日本と韓国では女性が家事を担い、男性の家事へのコミットは他国と比べて圧倒的に少ないことが分かります。
最後に、ポジティブアクションに関連する我が国の法律について、女子差別撤廃条約、男女共同参画社会基本法が紹介され、このような法整備がなされても現実がそれに伴っていないという課題が強調されました。ジェンダー平等を阻むものとして、性別役割分業意識があり、構造変革・文化を変えることこそジェンダー平等への途であり、そのために全ての人々の意識変革のための教育が第一義であると結論付けられました。
続いて、3つのトピックについて、話題提供・意見交換がされました。
① 主権者教育について(ファシリテーター:北九州ESD協議会・服部さん)
🧩儒教文化の影響なのか、日本を含む東アジアでは、性別役割分業意識が強く、女性は家事を担い、社会的・政治的な立場・権利が制限されています。
🧩他国の方と会話すると、日本のお母さんは家事を担いすぎている、大変ということを聞くけれど、日本の女性には自覚されていないことが多いです。
🧩投票権が低年齢化されたことにより、主権者としての意識が若者に必要になっているが、認識されることが少ないです。学ぶ機会として、家庭の役割が大きいです。
🧩夫婦が別姓であることで、個として尊重され、権利意識を持てる、そのように意識が変わるということを先ほどの発表からも感じました。
🧩家庭から見る主権者教育としては、女性が家庭の無償労働を担うのが当たり前という環境で子どもが育つと、女性は政治に関与できないという意識を醸成してしまうのではないでしょうか。他方で、男性が仕事をしている間、地域や自治体の活動には女性がコミットすることで地域・社会を変えていく姿も子どもは見ているので、女性の社会参画の可能性という意識も持て、この両面があるといえます。
🧩市会議員選挙の候補者を出すなどの助成の政治活動なども引き続き応援していきたいです。
② ジェンダー教育と団体活動の関連について(ファシリテーター:北九州ESD協議会・後藤さん)
北九州ESD協議会の会員94団体を対象に「自身の団体の活動とジェンダー平等の繋がり」についてのアンケートが行われ、その結果が共有されました。回答率は19%で22団体から回答がありました。
■質問1:あなたの団体の活動に一番近いものはどれですか(ESD for 2030の5つの優先行動分野より選択)
1.政策の推進 (3団体)
2.学習環境の変革 (3団体)
3.教育者の能力構築
4.ユースのエンパワーメントと動員 (2団体)
5.地域レベルでの活動の促進 (14団体)
■質問2:あなたの団体の活動の主たる分野を一つ選んでください。
●回答が多かった順に:その他(約35%)、ジェンダー平等(約18%)、環境(約15%)、福祉(約10%)、生物多様性(約10%)
■質問3:SDGs5「ジェンダー平等を実現しよう」達成に関係していますか。(5段階で選択)
●非常に関係がある10団体(46%)、やや関係がある4団体(18%)、関係はある8団体(36%)
■考察:協議会の会員は活動中にジェンダー問題について体験し、学んでいます。そのため、環境に取り組んでいても、ジェンダー平等にも目を光らせていなければ、環境問題が解決しないということを理解しています。アンケートに回答した会員は、活動分野それぞれに応じた目標があっても、その先の公正で持続可能な世界の構築を見据えています。よって、会員の皆様とは、SD(Sustainable Development)を共に学び、目指す社会のために共同して貢献できる可能性があるために今後も協力して取り組んでいきたいと思っています。
<参加者のコメント>
🧩教育がポイントとのご提示はとても大事で、ガールスカウト日本連盟は、意識改革、行動変容につながる教育が必要で家庭、学校を含めたあらゆる場面で活用できる意識的なプログラムをつくり、子どもたちと活動しています。自尊感情を育てることや、地域社会に役立つ活動を見つけることなどがあります。ご関心のある方はガールスカウト日本連盟のウェブサイトをチェックしてみてください。
🧩ジェンダープログラム(https://www.girlscout.or.jp/activities/project/sdg5/)
🧩『18-25歳対象 ジェンダーに関する調査報告書2022』(https://www.girlscout.or.jp/report/20220023362/)
🧩オンラインプログラム「me and them」(https://www.girlscout.or.jp/meandthem/)
🧩ライフワークバランスの重要性を若い学生の頃から教育することが重要ではないでしょうか。地域、家族、仕事、友人との縁それぞれに、男性であっても女性であってもきちんと関われるように、仕事漬けにならないように、バランスの取れた生活ができるような教育が最も大切ではないでしょうか。
🧩性別役割分業の考え方がまだ普通で、女性は家にいて、男性は働くという考え方に違和感を持っています。意識を変えるためには理解を深めること、教育が重要だと思います。
③ 韓国の女性活躍支援政策、クォーター制について~韓国との交流を通じて得た情報を通して~(三宅理事)
クォーター制とは、議会における男女間格差を是正することを目的とし、性別を基準に女性又は両性の比率を割り当てる制度です。韓国の国会のクォーター制は、比例代表選挙の候補者名簿の最低50%を女性にしなければならず、名簿には男女交互に並べなければならないと義務付けています。また、小選挙区制では、30%を女性とすることが努力義務とされています。
ドボン区の選挙結果を見ると、クォーター制の導入時期後に、女性議員の割合が増えています。前回の選挙では50%まで上昇しました。韓国の国会議員の女性比率に関しても、2000年に6%だったのが、19%まで上昇しています。日本の場合、衆議院の女性議員の割合は、2021年、9.7%です。韓国の女性議員の割合の伸び率が大きく、クォーター制が貢献していると推察されます。ちなみに北九州の女性議員の占有率は20%(2022年)、杉並区議会の女性議員の比率は52%(2022年)です。
韓国の女性活躍支援施策は、3つのポイントがあります。
1. ワーク&ライフバランス: 2008年より父親の有給休暇が3日保障され、2013年より4-6時間/日労働でも国民年金、福利厚生で正社員と同じ待遇に
2. 保育: 2004年、親の就労に関わらず全ての子どもが利用できる普遍的保育への転換
3. ポジティブアクション: 2005年クォーター制の導入
文在寅政権のもと、女性活躍支援施策が進められています、具体的には以下に取り組んでいます。
1. 女性支援政策の強化
2. 非正規女性労働者に対する差別の禁止
3. 公社や準公的機関での女性管理者の増加
4. 性暴力の根絶
■課題:徴兵制による就職難を背景に若い世代の男性からの女性支援政策への不満があることや、政権交代による政策の転換(女性家庭部の廃止)などが懸念されます。
最後に三宅理事からセミナーのまとめが述べられました。教育がSDGs全てのゴールに関わっているように、ジェンダーの問題もSDGs全てのゴールに関連しています。ジェンダーの問題を皆さんに知っていただき、今後も共に考えていただきたい、そして関心のある方は是非、今後とも勉強会等に参加していただきたいというコメントで締め括られました。
📋アンケート結果📋
🧩参加者計21名(司会1名、関係者6名、ESD-J事務局3名含む)
🧩アンケート回答者:7名
1.活動地域
福岡県 2名
千葉県 2名
全国 3名
2.セミナーの内容はいかがでしたか
(大変良かった 1名、良かった 2名、普通 3名、あまり良くなかった 1名)
2-2.その理由をお聞かせください
🧩 講師以外の方からの情報も満載で大変勉強になりました。
🧩時間に押されて短縮型になっていたのでゆっくり聞きたかったです!
🧩自分の活動を振り返って、考える参考になった
🧩分科会での参加者のみなさんのご意見発言の時間がもう少しあった方がよかった。参加者は関係者が多かったようすですが、この際、皆さんのご意見も出しあえる機会にしてもよかったと思います。最後の韓国の現状報告は貴重な機会ですが、今後、データー更新を含めて期待しています。
🧩セミナー全体で何を伝えたいのかがあまり読み取れなかった。北九州のジェンダーに関する課題と、今後どうしていきたいのか、日本では、北九州ではどうするべきかという意見や議論がされることを期待していたが、それが得られなかった。参加者のご意見や関心事などももっと伺いたかった。
🧩時間管理が甘く、内容もまとまりなかった。
3.セミナーに参加されての気づきや学びをお聞かせください
🧩 意見交換を希望するテーマを事前にお知らせする方法は良いと思います
🧩セミナーに参加する前に自分で主権者教育、ジェンダー、韓国クウォーター制度について調べました。自分の希望したジェンダーでは、自分たちの生活など身近にジェンダーはあることを改めて知り、それについてどう理解すべきか考える機会になりました。各テーマについての知識以外にも話し合いすることで、体験談からのライフワークバランスの大切さも学ぶことができました。
🧩日本のジェンダー意識レベルは低いらしいということ。
🧩ジェンダーへの関心が低いのは、ジェンダーが女性の権利と思っている人や、自分の生活に関係が無いと思っている人が多いためだと思う。それを、自分事化することがESDなので、ジェンダーを学ぶ機会をいかに創出出来るのかが鍵だと思う。
🧩今回のテーマはとても大事で、北九州のみなさまの活動視点をもっと伺いたかったです。
以上