参加報告 ESD-NET 2030 Global Meeting
浅井 孝司理事・浅野 亮理事・事務局・横田 美保
2023年12月18-20日に開催された第1回ESD-NET Global Meetingには、約80カ国から約300名の参加があり、ESD-Jからは浅井理事、浅野理事(1&2日目のみ)、事務局・横田(1&3日目のみ)が参加しました。
ESD-NET 2030とは、2030年に向けたESDの実施を促すことを目指して、加盟国と関係者の双方を支援するために立ち上げられたグローバルなネットワークです。
今回の会議は、以下を目的として開催されました。
🎯教育の変革という文脈の中で、ESD for 2030がいかに教育の質と関連性を強化するかを実証すること
🎯ESD for 2030プログラムの下で、持続可能な開発の課題に対する体系的な教育的取組(国・地域)を開発すること
🎯国・地域レベルでの「2030年に向けたESD」の実施に向けたマルチステークホルダーの関与の強化
3日間のプログラムと、印象に残った点をご紹介します。
🟦1日目🟦
◆全体パネルディスカッション:「共に教育を変革する」
教育の変えるべき点と変えてはいけない点について3名のパネリストが議論しました。AIの情報を無批判に受け入れたり、AIに教育を支配されたりしてはいけない、AIが生成できるものの多くは重要ではないというという意見が印象に残りました。
また、西欧的な知・教育システムに偏りすぎることは危険であり、各国・それぞれの地域のコンテクストに合せた伝統的な知恵や文化・技術等も活かした学びこそが重要で、特定の教育がメインストリーム化される事への危惧も喚起されました。
🔷セッションI:ESD for 2030のためのESDの舞台設定
ユネスコの「ESD for 2030」活動の概要とプログラムの紹介、ESDの重要性と関連性、ESD for 2030の世界的な現状について紹介されました。
特に印象に残ったのは、学校での学びと学校以外での学び・技術等を相互に関連させ、交流することによって学びを深めることの重要性と、ESDの文脈でも学習者が安全と感じる学習環境を担保することの大切さです。学習者が安全と感じる学習環境とは、学内外で暴力やいじめが無く、心が健康で、心がオープンな状態、また差別等もない状態をいいます。緑化教育(Green education)や気候変動教育も重要なトピックとして強調されました。
🔹2023年ユネスコ/日本ESD賞の受賞案件の紹介
それぞれの案件の関係者が会場にいらっしゃり、受賞の喜びを述べられました。
●「日本のユネスコ生物圏保存地域(ユネスコエコパーク)およびジオパーク内の遠隔地域活性化を目的とした世代間学習」(金沢大学(金沢大学国際機構ママードウァ・アイーダ准教授)による事業)
白山ユネスコエコパーク及び白山手取川ジオパークの登録地域を活用したESDの実践。少子高齢化問題を抱える離村での外国人留学生と地域住民の交流が、両者の価値観の変化や行動変容に繋がっており、持続可能な社会実現に向けた地域活性化に貢献しています。
●「Hero School」(グアテマラ・Long Way Homeによる事業)
気候変動の緩和、教育や水へのアクセス、ジェンダー、人権といった持続可能な価値をカリキュラムに統合させ、誰もが手が届く質の高い教育を、周縁化されたコミュニティに提供しています。児童生徒は学んだことを活かし、減煙ストーブ、飲料水タンク、安全なトイレ等を作ることで、コミュニティのウェルビーイングに精力的に貢献しています。
●「Schools and Colleges Permaculture(SCOPE)programme」(ジンバブエ・Zimbabwe Institute of Permacultureによる事業)
学校を自己完結型の生態系とみなし、学校の土地を地域のニーズに合った生産的な菜園に変えています。そこでは、学生、教師、地域社会が協力して様々な作物を栽培・収穫することで、食料の質を高め、世代を超えた包括的な学習プロセスにより、学校とその教育・学習環境の発展に貢献しています。
🔷セッション II: 日本におけるESD: 学習者中心の実践と学校・地域社会全体 文部科学省、日本の大学、学校関係者主催
本セッションでは、宮城教育大学・市瀬智紀さんから日本の学校におけるESD(持続可能な開発のための教育)の取り組みの動向」について、気仙沼市立鹿折小学校の小野寺裕史校長からは「『海と生きる』探究活動を通した海洋リテラシーの育成」について、奈良教育大学附属中学校・有馬 一彦教諭と2名の生徒からは、「古都奈良を題材とした異学年のESD探究型学習」について、そして金沢工業大学・平本 督太郎教授、島田 高行さんからは、「ESDの視点に立った主体的な学びのための効果的なゲーミフィケーション教材」についての発表がありました。
日本の好事例の発表について、参加者からは多くの質問が寄せられました。特にSDGs/ESDを学ぶゲーミフィケーション教材については、ウェブサイトからでダウンロードフリーな教材も数多くあるということで、対象の校種や対応している言語、どこから入手できるかなどの質問が相次ぎました。(SDGs ゲーミフィケーション教材リンク:https://lodu.co.jp/contents)
🔷セッションIII 分科会
グループD:「持続可能な開発のための教育における若者の有意義な参加を確保するための世代間アプローチ 持続可能な開発のための教育」、青少年代表主催(横田が参加)
同分科会は、アイルランド、ペルー、エジプト、ジンバブエ、タイの5名の女性のユースパネリストがそれぞれの国、地域のユースに関する①課題、②その課題解決のアプローチ、③機会、④今後の計画について発表し、その後参加者も①~④について、それぞれの立場から共有しました。
アフリカでは、若者の半数以上が学校に通っていない、仕事に就いていない状況でどのように学びの機会を提供出来るかが課題であることや、ジンバブエでは政権交代が頻繁であることや暴力が恒常化している問題、アイルランドでは分断による政治的なバイアスの影響など、各地域特有の課題が共有されました。
どの地域でも省庁横断的なESDの取り組みが欠如していること、ESDの認知度が低いことが課題で、認知度の向上のためにはマルチステークホルダーのパブリックキャンペーンが必要であること、加えてソーシャルメディアの活用が効果的という意見が共通していました。ESDをムーブメントとして更に普及していくためには、国を超えたユースのネットワークの構築、各国でユース関連施策を推進する必要がありますが、国によって事情が様々であり、またユースの課題に取り組む省庁・機関が多様であることから、一元的なアプローチは難しく、各地域のコンテクストに合せた推進方法の検討が必要という点も強調されました。
タイからの参加したパネリストに日本のESDのユースグループとの交流があるかを尋ねたところ、全くないとの回答で、非常に残念に思いました。
🟦2日目🟦
◆首都圏のユネスコスクールおよび学習センターへのフィールドビジット
会議参加者が、それぞれの希望により、都内の幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び公民館の5つのグループに分かれて訪問しました。
【都立三田高等学校への訪問(浅井理事)】
会議参加者及び国連大学大学院博士課程の学生1名が加わり30名ほどで訪問しました。(日本人参加者は3名)学校に到着後、校長先生からの歓迎の挨拶の後、昨年度に米国留学を経験した3年生から三田高校の概要について英語による説明を受けました。その後、参加者が7組のグループ(1グループ4~5名)に分かれ、それぞれに2年生2名がついて、学校内を案内していただきました。授業中の教室にも後方から入り、見学することができました。学校内の見学の後、各グループがそれぞれ1学級に入り、参加者が生徒に英語で自己紹介を行い、生徒と懇談しました。例えば、4名で構成されるグループでは、生徒が4班に分かれて、参加者がそれぞれの班を10分ずつ回って生徒と懇談を行いました。
【大田区立大森第六中学校への訪問(淺野理事)】
ESD大賞(文部科学大臣賞)、ユネスコ本部ホームスクールアプローチ事業参加校、サスティナブルスクール認定校、東京都教育委員会持続可能な社会づくりに向けた教育推進校など、ESDでの多くの実績を持つ中学校でした。環境、平和、防災を柱に教科横断によるホールスクールでのESDを推進しています。当日は、校舎内見学、ESD担当教員による概要説明に続き、1学年生徒が学区内をフィールド調査した危険箇所等の情報を、グループ毎に安全マップに整理する活動を参観しました。事後の計画を伺ったところ、自作マップをデータ化し自治会や消防等の協力いただいた関係者に届ける予定とのことでした。生徒による地域への具体的な提案や日常行動等に繋げていないところが残念に思いました。校舎内にはESD関連の掲示物が多く見受けられ、教師も生徒もESDを意識した教育活動を展開していることが分かり、参考になりました。
🔷セッションV: 地域ごとのESD for 2030―5地域それぞれのネットワーキング
アフリカ、アラブ、アジア太平洋、北米ヨーロッパ、中南米の5地域に分かれてESD for 2030について情報交換を行いました。アジア太平洋グループでは、タイ、モルジブ、マレーシア、韓国の参加者からそれぞれの国で進めているESDについて、その政策やESDの進め方などの報告がありました。
タイでは、ユネスコのASPNetを利用した学校におけるESDの振興が紹介され、韓国ではSDGを進めるための法律を制定したことが報告されました。モルジブではカリキュラムの工夫によりグリーン教育を推進していることが紹介されましたが、詳細は翌日のセッションで述べるとの発言がありました。日本からは学習指導要領にESDを入れたことを報告しました。
🟦3日目🟦
🔷セッションVI 分科会
グループC:「カリキュラムデザインにおけるESDの強化: デジタルツール、フレームワーク、モニタリング・評価のためのデジタルツールとイノベーション」(ALDESDとユネスコMGIEP主催)(横田参加)
まず、アイスブレイクとして、Menti.comというツールが紹介されました。(https://www.mentimeter.com/)質問の送付、投票などがリアルタイムで集計され、画面で共有できるツールです。
次に、3名(エクアドル、フィリピン、ガーナ出身)のパネリストがデジタルツールやデジタル化の推進施策を紹介しました。
フィリピンでは、オンラインのトレーニング・ワークショップ、ウェビナー、教員のキャパビルのためのツール、評価ツール等が充実しており、教育省とテクノロジー&科学省が協働で取り組んでいるそうです。学習者がスマホでアクセスできる無料の学習サイトも充実しています。
インフラが整っていないガーナでは、図書館の代わりに読み物、資料、オーディオ・ビデオ教材が全てデジタルで提供されており、ウェブ上でダウンロードが可能です。また、学校のPCからアクセス可能な学習ツールや、オンラインで教員が受けられるコース(デジタルリテラシー、スクールマネージメントなど)も充実しています。
課題としては、デジタルツールへのアクセスが難しい地域や人々が一定層いることや、デジタルツールを使用した効果の評価が難しい点、ツール開発の資金や専門家が不足していることなどが挙げられました。日本におけるデジタルツールの普及は遅れているので、他国の状況は大変興味深かったです。
次にイギリスの団体が実施しているESD BOOTCAMPというオンラインの研修コースが紹介されました。行動変容を促すには、①脳(知識を与える)に働きかけるだけでは不十分であり、②ハート(感情)に訴えかけ、③手を動かすこと、その3点が揃った学びを創出しなくてはならないという点が特に強調されました。
◆リンク:https://www.iesalc.unesco.org/en/eds-bootcamp/
🔷セッションVII:ESD-NETの地域戦略-共に進む道
2日目午後のセッションにおける地域毎の話し合いの内容が共有され、今後の展望がそれぞれ述べられました。
アジア・太平洋地域の活動の優先事項としては、以下が挙げられました。
ESDの普及啓発
教育者のキャパビル
ESD状況のマッピング
APECへのESDの提案
地域プラットフォームでの好事例、マテリアルなどの共有
モニタリング・評価
コミュニティに根ざしたマルチステークホルダーのアプローチ
また、2024年6-7月にマレーシアにおいて、ESD-Netのアジア太平洋地域ミーティングが開催されることも発表されました。
【本イベントに参加しての感想】
●浅井理事:今回はESD for 2030 グローバルネットワークの最初の会合ということで参加者同士の紹介や情報交換が主でしたが、ESDを推進している多くの参加者が集まったことにより、連帯感が生まれるとともに、参加者それぞれが勇気をもらったように感じました。ただ、やはり参加国に偏りがあったことは否めません。実際に対面で話し合うことができた点は大きかったと思います。また、東京中心ではありましたが、実際に多くの参加者が学校を中心とした日本のESDを知る機会として意義深い会合であったと思います。
●浅野理事:ESDはこれから一層重要であり、そのための教育を国レベルや自治体レベル、教育関係者レベルで充実させなければならないという点、そのためにはステークホルダー間での共通認識の深化と有機的なネットワークの実効化が重要という点では共通していました。しかしながら、その目的と教育観,目指す人間像、社会像には各国の情勢を背景とした思惑が如実に垣間見られた印象を持ちました。今回参加した方々は国に偏りがあり、研究者や行政トップ、教育関係者やNGO・NPO等の立場の方々が多く、それぞれの立場や視座から抱くESD観での提言や議論に終始していた感が否めませんでした。国によって教育システムが異なることから、カリキュラムの対象と内容、編成の仕方にも差があると感じました。ESDで目指す人づくりと社会づくりに加え、システムづくりでの変容と変革が、持続可能な未来社会を必要であることを考えさせられたグローバル会議でした。わずか2日間の参加でしたが、あの場で出会った方々との繋がりを大切にしていきたいと思います。何しろ、人のつながり,ビジョンの共有こそがESDにとって生きた教育資源そのものなのですから。
●横田:デジタルの学習プログラム・教材やオンライン研修のプログラム等は、日本よりも遙かに進んでいる国・地域が数多くありますが、英語等の外国語で作成されていることもあり、日本では殆ど活用されていないことが分かりました。そのため、海外の優良なツールを和訳して、日本のコンテクストに合うように活用することが出来れば、独自に開発するよりも効率的・効果的にESDを学びに取り入れられると思いました。あるいは、外国語の学習と併せ、それらのツールを英語等で使いこなすことを目指すのも有効な試みではないかと思いました。
今回のミーティングに参加している国、地域が偏っていることがとても気になりました。ユネスコが渡航費等を補助しているとはいえ、参加出来ない国も多くあるということが分かり、ESDをグローバルなムーブメントとするには、もっと多くの国の参加を促す必要があるように思いました。最後に、名刺交換をした沢山の団体についてなど、ここに書き切れない情報は、引き続き共有していきたいと思います。