文責:鈴木 克徳
■ 日時:2024年9月18日(水)19:00~20:45
■ 司会:鈴木 克徳(ESD-J代表理事)
■ 講演者:(敬称略)
二ノ宮リム さち:立教大学環境学部設置準備室・大学院社会デザイン研究科教授、日本環境教育学会理事・国際交流委員長
■ 報告者:(敬称略)
・森 朋子:東京都市大学准教授
・棚橋 乾:全国小中学校環境教育研究会顧問
・栗島 英明・谷田川 ルミ:芝浦工業大学教授(お二人共通)
・矢動丸 琴子:IUCN-CEC(教育・コミュニケーション委員会)
・二ノ宮リム 虹:ユース(参加当時高校生)
■参加者:27名(司会1名、関係者6名、事務局3名含む)
■プログラム:
19:00 開会、趣旨説明
19:05 二ノ宮リム さち教授による講演
19:30 他の 12th WEEC 参加者による報告・感想等
森 朋子さん
棚橋 乾さん
栗島 英明さん・谷田川 ルミさん
矢動丸 琴子さん
二ノ宮リム 虹さん
20:00 質疑・意見交換
20:30 閉会
まず、司会の鈴木克徳理事より趣旨説明とゲストの紹介を行った。
世界環境教育会議(WEEC)は、ESDの世界では最も権威ある国際会議の一つと位置付けられている。本日は、会議に参加した立教大学教授、日本環境教育学会国際交流委員長の二ノ宮リムさちさんからWEECの歴史と今回の会議の概要について講演をしていただくとともに、他に会議に参加をされた方々からも報告いただく。この会議は、パラレルでたくさんのセッションが開かれたため、なかなか全体像を把握しにくいので、会議に参加された方々からの報告は貴重な機会になると思う。 |
【二ノ宮リム さちさんの講演】
(ダウンロード可能)
立教大学環境学部設置準備室で環境学部の設置準備をしており、日本環境教育学会で国際交流委員長を務めている。
WEECは、2003年にポルトガルで第1回会議が開催され、数年間は毎年開催されたが、2007年から隔年開催になった。WEECには、研究者、実践者、行政官や学生が参加。本部はイタリアのローマにあるが、会議ごとにその地域で実行委員会を立ち上げて会議を運営する。これまでのアジアでの開催は2019年のタイのバンコクのみ。 今回は、トリプル・プラネタリー・クライシス(三大環境危機:気候変動・廃棄物&汚染・生物多様性損失)をはじめとする10のテーマが設定され、発表者はそれぞれのテーマに応じて発表。会場にはポスター展示ブースが設置され、日本環境教育学会から、学会の活動の説明を展示、会員から提供された東京内野学園、国立環境研究所、IGESの資料を配布。 日本環境教育学会として招待されたセッションでは、日本、北米、イタリア、南アフリカの学術誌の紹介と、学術誌が抱える課題についての討議を行った。研究論文が読まれない、役に立たないとの批判があり、導入動画作成などの事例が紹介されたほか、非英語圏のジャーナルが英語圏のものに対して評価が低いことや、原稿掲載料の支払いを求めるハゲタカジャーナルのような問題が指摘され、後者については声明文が発出された。 |
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この大会の成果物として、アブダビ・ロードマップという宣言が発出された。2030年に向けて以下に示す環境教育やESDの7つの緊急アクションを提案。 ● トリプル・プラネタリー・クライシスへの対応 ● AI/技術の活用 ● 幼児教育・保育からの持続可能性 ● 美、倫理、価値、文化的多様性への注目 ● ネットワークと協働 ● EE/ESDの測定・評価(参加型で) ● グリーンスキル・グリーンジョブの接合 大会を通じて印象に残った点は以下の通り。 ●社会情動的な学習(socio-emotional learning)への着目の進展 ●多数のデジタル技術・AIの可能性と課題に関する注目の高まり ●ユースの重視、ユース・セッションの開催と課題 ● インドの環境教育センター(CEE)とIUCNの呼びかけによるSASEANEE(South and Southeast Asia Network for Environmental Education)のキックオフ次回はオーストラリアのパースで2026年9月21日~24日(仮)に開催の予定。 |
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【12th WEECに参加した他の方々からの報告】
●東京都市大学 森 朋子さん
大変多くの発表がパラレルに行われるが、その内容と質は極めて多様。北米環境教育学会などと比べて、裾野が大変広く研究者、実践者だけでなく、芸術と環境教育が語られる等、多様な方が参加。発表をするために提出するAbstractは英文2枚程度の簡単なもので、あまり厳しい審査は行われないよう。1つの会場当たりの参加人数は必ずしもそれほど多くない。発表の難易度はそれほど高くはないが、参加登録費が日本円で6~7万円程度とかなり高額であり、その他に渡航費とかホテル代がかかるので、どう経費を工面するかがハードルになる。 |
●全国小中学校環境教育研究会 棚橋 乾さん
元学校教員ですから、研究発表ではなく、著名な世界会議の様⼦を⾒て学ぶというスタンスで参加した。全体として、⽇本で⾏っている環境教育と同じとの印象をもった。問題解決に向けて主体的に取り組むための環境整備をどうするかなどや、環境教育が広まらない困り感も⽇本と同じだと感じた。とても良い体験だったので、可能であれば多くの⽅が参加できると良いし、いずれ⽇本でも開催できると良いと感じた。 |
●芝浦工業大学 栗島 英明さん・谷田川 ルミさん
「未来とつながる授業」として種子島の中学・高校と組んでバックキャスト的な思考を柱とする学びについて、その活動のポスター発表を実施。会議は、ロジがしっかりしていなかった。また、ポスター発表のための時間が組まれておらず、プログラムにもポスターの発表者の名前の記載がされない等、ポスター発表の扱いがひどかった。今後参加される人は、ポスター発表より口頭発表を考えた方が良いかもしれない。良かった点は、各国の人たちが同じ悩みを共有していることが分かったこと。共通の悩みに取り組んでいる人がいることが分かり、モチベーションアップにつながった。 |
●IUCN-CEC(教育コミュニケーション委員会) 矢動丸琴子さん
カナダからの参加で回線不良により、後日スライドを共有していただいた。 |
●ユース 二ノ宮リム虹さん
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Fridays for Future (FFF)という気候変動問題を訴える若者団体の東京支部に所属している。当時高校3年生だったが、本会議とは別に設けられたユースの会議(YEEC)に参加。世界中からの10代前半から30代までの環境アクティビスト50名弱が参加。学生や研究者が環境教育にどのようにアプローチしているのかなどの発表があり、また、ケーススタディを用いてグループでの討議が行われた。この会議に参加する前は、メンバー不足で仕事に追われて悲観的な思いだったが、この会議で積極的な大人たちの話を聞くことができ、元気を分けてもらえ、とても参加して良かったと感じた。印象に残ったのは、音楽の力についての発表。 課題は、本会議と若者会議が分断されていたこと。アブダビ・ロードマップの作成プロセスにはほとんどの若者たちが参加できず、後味が悪い思いをした。この会議に参加して大きな刺激を受けたため、より多くの日本の若者が参加できるように、奨学金プログラムのようなものがあると良いと思った。 |
【質疑・意見交換】
Q:アブダビ・ロードマップについて、若者の声を反映する機会が得られなかったとのコメントがあったが、一般の参加者は意見を言う機会はあったのか?
A:定かに記憶していませんが、直接意見を言える機会はなかったように思う。全体会のテーマがアブダビ・ロードマップとかなり関係しているので、全体会の議論の結果が反映されていると思う。
○コメント:先ほど、ユースへの奨学金プログラムがあると良いとの意見があったが、次回のオーストラリアの会合に向けて、実行委員会が立ち上げられて議論が行われており、ユースの参加を促すようなファシリテーターの研修を実施することとしているので、日本環境教育学会のウェブサイトを通じて情報を共有したい。
○コメント:日本環境教育学会でも、国際交流委員会としてユースの参加を促進するための仕組みづくりをしたいと議論している。
Q:「環境」という用語のとらえ方について、西欧と非西欧の国々でずれがあるかもしれないと思うが、会議でそのように感じたことはなかったか?
A:タイの人だったと思いますが、戦争の話をしていた。環境の会議ではやや珍しいなと思った。
A:「環境」の定義についてはうまく思いつくことはないが、研究論文の構成について通常は西欧的な論理に基づき定まった様式で書かれるが、詩とか漫画など異なる表現の仕方もあるといった指摘があった。日本環境教育学会の英文ジャーナルに関しても、西欧型の論文の形式を踏襲するだけでなく、アジアの多様性を活かしたものも取り入れていくべきとの議論もある。
○コメント:自分は若いころから国際環境NGOとかエコツアー、環境教育に関わり、オーストラリアに16年いたが、オーストラリアの環境教育と日本の環境教育とは大変違うと感じている。なお、オーストラリアに渡航するのであれば、時期によって航空賃が大きく変わるので、早めにフレックスタイプの航空券を買っておくと良いと思う。
Q:それぞれの専門性を縦割りでなく取り組むという話があり、どこの国でも同じような課題を抱えているとの指摘もあったが、日本環境教育学会として、縦割りの打破に関して何か行われているか?
A:全体会の中で、専門分野が細分化し、サイロ化している状況を打破する必要があるとの文脈での議論があった。環境教育の中でのサイロ化への対応、ESDの場合にはさらに幅広い分野間でのネクサス(統合)の必要性について、国内でも議論されるようになってきている。これまで環境教育学会、あるいは環境教育学会と社会教育学会の間でも統合的、包括的な議論や連携が模索されてきている。
【総括】
世界環境教育会議のような大きな会議になると、全体像を把握するのが難しいが、本日は二ノ宮さんをはじめとする参加者の皆さんに様々な観点からのご報告をいただき、書類のみでは分からない会議の概要が良く理解できたように思う。次回の会議は2026年9月にオーストラリアのパースで開かれるので、ユースを含む多くの日本人の方が参加されることを期待したい。最後に、二ノ宮さんをはじめとして会議に参加し、報告をしていただいた皆さんに、この場を借りて厚くお礼申し上げる。
【アンケート集計結果】
セミナー参加者27名、アンケート回答者11名
●セミナーに参加しての気づきや学び(抜粋)
・環境教育/学習を世界で協力して進めていこうとする意志を感じました。
・国際的交流の重要さと難しさ/広く浅く、と、狭く深く、の統一の重要性
・国際会議のご報告、興味津々に聞かせてもらいました!かなりの英語力(または多言語)が必要かと思われますが、急速な環境悪化の中、日本も環境先進国、環境教育で影響を与えて行く国として、大きなインパクトを与えるべく、志を共にする方々とつながっていきたいと思いました。
・森先生のお話のところで、タイの方が戦争や芸術から環境問題をアプローチしていたというお話を聞いて、ぜひその発表を聞いてみたいなと感じました。
・会議の文書からだけでは見えてこない様々な面について、会議に参加した多くの方々からお話しいただれたことは大きな収穫だったと思います。音楽等を含め、社会情動的な側面が強調された点、ユースの参加が重視された点は印象的でしたが、現実にはユースのセッションと一般のセッションとがうまくつながらなかった等の課題があったとの発表も次につながる改善点と思いました。
環境教育世界会議の概要を知ることができた。Abu Dhabi Road Mapについてもう少し知りたい。
・ユースのお話が興味深く感じました。ユースという枠を創ることで参加を促すことになる一方で、本会合と別に位置づけられてしまうという点は国内の会議でもありうるなと思っています。メインの会合にユースが入っていくことが本質的なユースの参加となるのだろうなと感じました。
●オーストラリアのパースで2026年に開かれる次回のWEECでの参加や発表への関心がありますか
はい6名、いいえ5名
●次回のWEECに関する情報提供を希望しますか
はい9名、いいえ2名