活動内容

人材育成

2024車座トーク「能登半島地震の復興 里海からの学びと地域」報告

🧩日時:2024年6月22日(土)14:00~16:00
🧩方式:オンライン
🧩ゲスト:浦田 慎氏
(一般社団法人能登里海教育研究所 主幹研究員/金沢大学環日本海域環境教育センター連携研究員)
🧩参加者28名(ゲスト、スタッフ含む)

最初に、司会の新海洋子ESD-J理事より、浦田氏の紹介と、本セミナーの趣旨・以下の目的が説明されました。
🟡能登半島地震発災後の状況について知る。
🟡被災地復興に向けてのどのような取組みがされているかを知る。
🟡能登半島地震の被災状況及び復興に向けての取組みを「わたしごと」にする。
🟡能登半島地震の被災状況や復興への取組みを踏まえ、私たちにできることを学びあう。

【講演】能登半島地震の復興 里海からの学びと地域
被災地で学びをつなぐ・能登里海教育研究所のこれまでとこれから

浦田 慎氏
一般社団法人能登里海教育研究所 主幹研究員
金沢大学環日本海域環境教育センター連携研究員

能登という場所と能登里海教育研究所の取り組みについて

まず、日本海、能登の海のイメージについてですが、暗い、冬に荒々しいというイメージを多くもたれがちですが、半島の内側(内浦)と外側(外浦)では、大きく異なります。能登町は内浦に面していますが、内浦は穏やかで環境と資源に恵まれており、のどかな海岸の光景が広がっています。日本海は干満の差があまりなく、内浦は特に波が穏やかなので、海岸近くまで里山の植生が進出しています。海岸の近くまで木が迫っており、海岸近くに住居が建っており、堤防などはないです。このような場所は、様々な海の恵みを得たり、子どもたちが遊んだり、勉強したりする場として活用されています。能登町、小木という能登里海教育研究所のある古くからの港町の位置は地図の通りです。

同地域の主な課題としては少子高齢化で、漁業の後継者不足にも繋がっています。そしてイカ釣りが主要な産業ですが、スルメイカの不漁が深刻な問題で、漁獲高が最近の10年間で10分の一程度に減ってしまっています。それが地域への大きなストレスになっています。

子どもたちの海の学びに着目してみると、一昔前は、学校から帰った後、友達同士で遊びに行って、サザエなどを取ったりして遊ぶ、海で色々な経験をするというのは珍しくない光景でした。それが昨今はみられなくなってきています。その理由は、少子化です。子どもの数が減ると、「あそこに行ったら危ない」とか「これは食べたら美味しい」など海のことを良く分かっている年長者がいない状態で子どもが海に行く可能性が出てきます。そうすると、危なくて親が子どもを海で遊ばせられなくなり、行かなくなると当然、海に関する知識も途絶えてしまいます。結果的に海に親しみを感じない子どもが増えて、漁業の後継者になろうとか、海のことに関心を持つ子どもの割合も減ってしまうという悪循環が生じています。

この状況を改善するために、公教育の場で再構築できないかと考えました。2015年に能登町の創生総合戦略の中で、まちぐるみで子どもたちの地元に対する誇りと愛着心を醸成することが示されました。全校生徒60名ほどの小木小学校が海洋教育のパイロットスクール(特例校)となりました。翌2016年度から小木小学校以外の学校も含めた全小中学校で海洋教育を実施することが決まりました。時を同じくして、金沢大学の先生方、教育委員会の教育長、漁協の組合長、商工会、観光業界の方などが理事として能登里海教育研究所が設立されました。日本財団あるいは能登町などから支援を受けて研究員を配置して授業を支援することとなりました。

学校教育における海洋教育の支援を研究員が行うわけですが、研究員が出前授業を行うことよりも、他の機関(金沢大学の臨海実験施設等)とも連携し、もっと幅広い働き方、コーディネートが必要だということが見えてきました。体験学習は、地域性を活かし、穏やかな海岸での豊かな生物を活かせる体験プログラムという点が重視されています。研究所は、能登町の小中学校以外の学校も支援しています。町外、他県からも能登町のすばらしい海に来て体験学習を行っています。高校生は、課題設定をしてユニークな課題研究(探究活動)を行っています。

能登里海教育研究所の戦略は以下の通りです。

教育現場では、多くの先生方は新たな教育プログラムに取り組める余裕がない等の課題があります。我々は、その課題解決のために、日々変化する現場のニーズに応じたコンテンツの提供や実践支援を通じて、公教育そのものの持続性をいかにつくっていくかをテーマとしています。言い換えると、公教育(学校教育)における海洋教育の推進の目的は、海の知識をつけさせたいというものではなく、地域社会の持続性です。

外部の指導者と学校との関係性に注目をしてみると、外部の指導者は先生方をうまく手伝えてないのではないかと考えました。そして、どういう体制を取れば、うまく学校の先生を支援できるのかを検討しました。学校の先生が一人で考える、あるいは外部の人のみが考えるプログラムよりも二人で協力して考えたプログラムの方が面白くなるだろうという考えの元に先生方と一緒にプログラムを開発していく方策をとりました。

従来、外部の支援者に協力してもらう際には、何をどう説明してもらうかは、基本的には外部の専門家任せでした。専門家は、自分が大事だと思っていること、子どもたちに伝えたいことをとにかく伝えようとします。ただそれが、先生方が日々の教育活動の中で感じている子どもたちの関心や、このように勉強したら理解深まるだろうという想いとマッチしないことが経験上多いです。そのため、先生方がまずどういう教育活動をしたいのかというイメージをきちんと協力者に伝えて、一緒に授業を作っていく、それを海洋教育の能登モデルと呼んでいます。具体的には、先生方が作る指導案のような企画書を両者で作成します。まず、先生が素案を作り、それに対し外部協力者がコメントして練り直していくというやり取りを何回かするうちに双方がいいと思えるようなプランができます。

先生の授業計画が、「子どもたち自身で疑問を持ったり、気づきを得たりすることを引き出したい」というオーダーの場合には、専門家は、子どもたちから問いかけが来た場合にだけ答えるというように、基本的には近くで見守るというスタンスで臨みます。また、授業を実際にやってみてどうだったかという振り返りも行います。反省点や気づいたことを記録しておきます。

能登町立小木小学校「里海科」の教育目標をご覧ください。教育目標の下線の部分を読んでいただくと、人とものの結びつき、関係性に非常に重点が置かれています。

「里海科」の教育目標は、海の専門知識ではなく、海を通じて人との結びつきについて理解させ、持続可能な社会の形成者としての資質を養うこととしています。特徴としてはとにかく授業時間が多いです。(1-4年生:14-70時間 5、6年生:35時間程度)

低学年は海に親しんで、海の価値を知る取り組みが中心になります。海を大切にするという心がないとその後、海を守るとか利用するところにもつながっていかないです。海の面白さや価値を体得した子どもたちは、その後の学習活動にも非常に積極的になります。コミュニケーションツールとしてデジタルデバイスを活用して、自分たちがすごいと思ったこと、面白いと思ったことを伝えるという学習も行っています。中学年になると、地域の課題、環境問題、資源利用などの方向に学習が広がっていきます。高学年では、地域のいろいろな方とコミュニケーションを取り、学んだことをどう他の人に伝えるために工夫するかという主体的な教科横断型授業も行います。

昨年、同小学校は、活動が評価され、第54回博報賞を受賞しました。海洋教育そのものが、サステナビリティと非常に深く関係しているので、学校教育が効果的に行われることがSDGs教育そのものと言えます。先生方から、里海教育研究所は、我々のゲストではない、パートナーであるというお言葉をいただいて本当に嬉しく思いました。どこの学校でも応用できる普遍性を持った内容ですので、小木小学校のみならず、他の学校でもさらにブラッシュアップして、それぞれの先生方の独自の工夫で面白い展開がなされています。学校で取り組んでいることは社会には見えにくいのですが、こういった成果と課題を発信、共有する活動を研究所が担っています。

地域と連携した教育イベントとして、「能登小木港イカす会」というイベントが開催されており、公の場で小木小学校の公開授業を行うという取り組みを行われていました。面白いのは、授業をみるだけではなく、一般の来場者がこの里海科の授業を体験出来るということです。こういった形で、子どもたちの学びが地域社会に伝わり、理解されていきました。

新型コロナウイルスの影響によって体験授業が実施出来ない時もありました。子どもたちの教育活動には、災害の影響があるわけです。こういった時にどのように対処したかというと、例えば高校生が臨海実習のために移動するのが難しければ、「出前臨海実習」といって、金沢大学と連携して生きものを学校に持って行きました。教室の中にブルーシートを敷いて、そこに生きもの並べて、そこで高校生たちがいろいろな課題研究を行いました。今年は地震の影響で同じような状況が生じているので、生きものたちを高校に持っていって臨海実習を行うことになりそうです。

コロナの時の別の取り組みとしては、大日本水産会の協力の下、「イカ博士キット」という教材を作成し、冷凍イカとテキストをセットにして販売しました。コロナで休校になって、子どもたちが学校に行けなくなった直後に企画し、具体化して1ヶ月程度で発送を始め、1,000個近く発送しました。東京など関東圏、県外に多く出て、従来イベントで教えていた子どもたちの数をはるかに超える人たちにこの学びを提供することができました。また、サポートするための動画も作り、ユーチューブにアップしました。その結果、子どもたちから良いリアクションが返ってきました。

この取り組みで得た大きなヒントは、必ずしも専門家が直接指導しなくてもサポート体制をうまく作れば、オンラインでも面白い体験学習のプログラムが展開できるということです。明星大学と連携し、東京都と神奈川県の中学校での授業に活用され、今年度は豊島区の全中学校で実施予定です。

イカは、はさみ1本で解剖でき、体の仕組みを理解するための器官が目で観察できる面白い教材です。また、その体の仕組みが、なぜそういう仕組みなのか、海の環境と体の機能を繋げることで理解が深まります。また、他の軟体動物などとの比較によって進化、多様性、そういったものがイメージできるようになるでしょう。水産資源がどうやって確保されているか、環境や漁法によってどういう影響を受けているかということも勉強できます。先生方が教材として使用する前には、個々の先生のためだけの研修会をオンラインで実施します。

能登半島地震の被害と教育現場への影響

次に、能登半島地震についてお話しします。この写真(左)で見る下の白いところは海岸が隆起して海藻石灰層が干上がったものです。また、非常に揺れが酷かったので、多くの建物が壊れました。津波による被害も生じています。壊れた建物がだいたい9,000棟近く、一部損壊も含めると、その十倍ぐらいあると言われています。関連死含む死者は282名(見込)と報道されています。

今回の被害の特徴としては亡くなった方は、ほとんどが建物の下敷きになってしまっています。津波で亡くなった方は非常に少なかったです。避難誘導や津波浸水域予想等は基本的には全て機能したとみられています。能登という場所の特性として、道が限られ、港もだめになっている状況で、物資運び入れることが難しいです。そのため復旧がなかなか進まないという状況が今も続いています。研究所も事務局が一時閉鎖、倉庫が傾斜、一部物品の破損などの被害が出ました。

自然環境にも影響が出ていて、大規模な地盤隆起でサザエやウニが干上がっていて、腐ってしまった箇所があります。地盤隆起が起きてないところでも船が沈没したり、岸壁が壊れたりして、例えば、油が流出したり、様々な環境への影響が出ています。教育に関わる施設、例えば、金沢大学の実験施設や海の科学館、そういった社会教育施設等にも被害が出ています。

学校にももちろん影響は出ていて、非常に大変な状況の中、しかも子どもたちも様々なストレスを抱えている中で学校教育が再開されました。

子どもたちの被災状況というのは、地域や建物の状況、家庭により様々です。自治体主導による集団避難もありましたし、民間の避難支援に従う生徒、各家庭の判断により自分たちで二次避難する人々など、子どもたちが一旦バラバラになってしまいました。

そういうさなかにも、とにかくできる教育活動は継続して行っていました。現在はほぼ通常に戻っています。ただ地域によっては、まだ避難所となっている学校もあり、水が出ない学校もあります。そういったところにNPO法人makanaさんのご支援でウォーターポンプを設置したり、理科機器などの学校の備品等の被災に関しても、藤原ナチュラルヒストリー振興財団様にご支援いただいたりしています。

先日、小木中学校に国連の防災機関が視察にきました。小木中学校は以前から防災教育に力を入れていたということもあり注目されていました。国連の方からは、6月20日に行われた中学生の防災学習活動の発表を聞いて、「希望を感じた」というコメントもいただきました。また、能登町立松波中学校では、震災後の色々な困難に直面しつつも、今年10月に自分たちが作った「海のふりかけ」を販売すべく、取り組んでいます。

最初に学びの場としての里海の価値、能登という場所が良い海の学びの場である。それを活かした教育活動を行っているということについてお話しし、それから能登町の海洋教育の目指すところ、研究所がどのようにそれを支援しているのかをお伝えしました。

今災害に直面して、どういった教育支援、教育活動ができるかということを経験を基に考えてきました。そういう中で、やはりお互いに協力し合うこと、子どもたち自身のコミュニケーションの重要さを認識しています。先ほど津波がすぐに来たにも関わらず、ほとんど亡くなっていないと申し上げましたが、近所中、連絡を取り合ってちゃんと避難させようとそういう動きがあったと聞いています。こういう災害時こそ、お互いのコミュニケーション、つながりが重要になってくると思います。我々は学校教育の中での取り組みとして実施してきたわけですが、地域社会のレジリエンスの要にもなるのではないかと感じているところです。

スモールグループでの車座トーク

浦田さんの講演の要点をまとめ、主に以下3点についてスモールグループで話し合いをしました。
1️⃣ 自己紹介・なぜこのセミナーに参加したのか
2️⃣ 浦田さんの講演から得た気づき、学びについて
3️⃣ 私(たち)には何ができるのか

各グループの報告

🔶グループ1
能登町は海洋教育に取り組んできており、それは子どもたちが自分たちの住んでいるエリアがどういう場所なのか、また海の役割等について理解することに寄与しています。その学びが震災等の対応に必ず活きてくると感じます。そういうことを考えると、能登に限らず子どもたちが自身の住んでいるエリアにどんな特色があって、どんなところなのかということを小さい時から学ぶような機会が必要ではないでしょうか。それを学ぶことによって、災害が起きてもどこに逃げれば良いのか等がすぐに分かり、また非常時だけではなく、自分たちが住んでいる地域のことが分かることによって、外から来た人に対しても地域のことが説明できます。それは、持続可能な開発のための教育にとっても必要不可欠なものであるから、こういう教育は全国のどこでもで、できるようにしなければならないのではないかと思いました。

🔶グループ2
特に学びを豊かにしていくために学校と地域が一緒に取り組み、協働していくことの大切さ、いかに授業をデザインする力をつけるかということが大事だということを学びました。昨今、海ごみの問題など色々海に関して言われているけれども、まずは海は良いところだということを子どもたちに認識させてあげることが大切です。海洋プラチック問題など様々な情報が出ていますが、インターネットでは誤解を与える問題もたくさん出ているので、正確な情報を学んで、それを伝えていく必要があります。誤情報に振り回されないよう、正しく学んでいくということの大切さ、それから教材を作成する際、お金の問題が生じるため財源問題をどうサポートしていくのかというようなことが課題です。加えて、私たちはハブ機能どう培っていけば良いのかということなどを話し合いました。

🔶グループ3
気づきや学びの部分では、浦田さんのお話で教科教育に埋め込むまでデザインされていた点が素晴らしく、お聞きしながら自己反省し、大切さを再認識しました。具体的には、グループメンバーでは、総合学習に関するサポートの依頼を受けることが多いですが、先生が介入しないまま授業企画をし、なかなかその先に踏み込めないという課題があるという話をしました。浦田さんの事例のように教科教育に組み込まれる、分野横断的、教科横断的な学びとすることが目指したいところです。今後何ができるか、どうするかという点は、今回ご紹介いただいた企画書(ツール)ー先生方のニーズを聞いて、専門家の皆さんと調整しながら作り上げて、実施後に反省をして次につなげていくーについては、明日から真似させていただこうと思います。準備段階でのコミュニケーションがすごく大事だということで、コミュニケーションをしっかりとっていこうと話しました。もう一点は、ユースの位置づけについてです。最近、国際会議等でユースが位置づけられてきていますが、ユース世代の意見としては、大人のやりたいことに巻き込むのではなくて、ユースの意見をもっと採用してほしいという思いがあるようです。そのため、国際会議で日本を代表してそういった主張ができる子ども達をつくるようなきっかけ作りや動機作りをとしていけたら良いと話しました。

🔶グループ4
印象に残ったのは、公教育が地域でのコミュニケーションをつくるために大事ということで、それが震災の際にとても活きたのではないかということです。コミュニティがしっかりしていると防災に強いのではないかという話がありました。私自身も公教育、小学生の授業に関わっているわけですが、浦田さんのお話をお聞きして、そういうところが改めて大事なことだなと感じました。

補足意見・コメント

🔶 宮城県で高校の教員をしています。東松島で牡蠣の筏は竹でできており、筏に使ってしまうと塩で廃棄もできないということで、宮城教育大学の先生がその筏を竹炭にして循環させるということを始めました。それを子どもたちと一緒に牡蠣の養殖や湾の生態を含めてセットにして学ぶということの普及活動を進めており、それに関して6月29日シンポジウムを行う予定です。高校生は、行動範囲が広いので地元のことを知るといってもかなり広範な活動が含まれます。そのため、学校教育にこだわらずに子どもたちが学ぶ機会を繋げられないかと思っています。また、国立環境研究所が提供しているミステリーという気候変動教育に関するツールが在りますが、高校の授業で応用しています。そういうカードを皆で作る活動は、もしかしたら先生方が地元を子どもたちに伝える活動の手助けとなるのではないかと思っています。
(リンク:https://adaptation-platform.nies.go.jp/everyone/study/mystery/index.html
🔶 震災によって輪島高校も生徒が散り散りになってしまいましたが、最近になって戻ってきて学びの日常を取り戻しつつあります。まち全体もそうですが、無機質的な復興ではなくて、心豊かな復興にもっていけたらと思っています。そこのプロセスがESDそのものではないかと思っています。直接的なことでいえば、ESDの関わりのあった環境市民の方から炊き出しの支援などをいただきましたし、こういうつながりが復興段階で助かりました。これから復興していく際に、我々だけではなく、高校生も一緒になって多くの人に支えられて学んでいく、成長していくことを感じてもらえるような取り組みが輪島でもできていければと考えています。
🔶 今学校は働き方改革で非常に声がかけにくいのですが、学校の先生方は何らかのサポートを求めておられるのではないでしょうか。外部から学校に「こういう提案がありますけど、どうでしょうか」というようにはアプローチしづらいので、例えばESD-Jのような団体がその両方の声が出会えるような場づくりができたら、良いのではないかと思いました。

浦田さんのコメント

🔶 皆様のお話を伺って、真剣に考えておられる方ばかりということもあるのだと思いますが、希望と言いますか、きっとこれからいい方向に向かい、良い成果を皆さんが作っていかれるのだろうという思いを持ちました。現実は、うまくいくことばかりではないです。がっかりさせられるようなことなどが出てくるとは思うのですが、とにかく次世代、子どもたちを育てることは、人間社会の全ての希望だと思っているので、少しでも良い形で引き続き貢献できればと思っています。今日は皆様から頂いたお言葉でとても勇気づけられたというか、希望がもてました。ありがとうございました。

浅野理事のメッセージ

淺野理事

淺野理事

今回は甚大な被災をされた能登半島地震がテーマだったのですが、浦田先生の今日のお話から、被災しても、地域の誉れを生かした能登の教育を停滞させることなく、地域で子供を育んでいくという浦田さんの決意を感じました。希望を頂くようなお話で本当に感動しています。

浦田先生のお話は、以下の「3つの転換」がキーワードになっていたと思いました。
まずは、「地域と共にある学校」への転換です。育てたい子ども像と目指したい教育のビジョンを地域と学校で共有し、目標の実現に向けて協働していく仕組みづくりが大切で、海洋教育がそれらをつなぐ編み糸になっているということです。海洋教育が学校と地域とをうまく編み上げていますし、世代間を超えて大人と子どもをも編み上げている、地元での体験ということと、学びというところも編み上げています。そしてESD的に今とこれから先の未来を共に描き、編み上げていくということを浦田先生のお話から感じました。研究所は学校と地域をつなぐコーディネーターの役割を担い、中間支援機能をしっかりと果たされています。

次に、「新たな探究的な学び」への転換です。気候変動や人口減少など、自然環境や地域社会が抱えている問題に向き合う「問題解決型」の探究に加えて、海の可能性やつながりの可能性、地域の可能性や自分自身の可能性などに向き合う「可能性拡張型」の探究が、自分事として持続可能な社会を考え、創っていくために必要な学び方になるということです。つながりの可能性や学び方の可能性、将来の可能性などは実は見えづらいところにあるので、その可能性とは一体何だろうかという想像力と、自分たちが思い描いている可能性にどう向き合っていくのか、可能性をどう可能にしていくのかということを深く考え、共に行動していく力が必要になります。

最後に、「地域の教育資源としての価値」への転換です。今日の小木中学校プレゼンシートの中に「自然の力をただ恐れるのではなく、そこから何を知ろうとするかが大事だ」というようなことがあったのですが、まさにそうだと思います。気仙沼も13年前、2011年の3月に東日本大震災で甚大な被害を受けたのですが、その6ヶ月後の2011年の10月に気仙沼市民が復興のキャッチフレーズを作ろうといった際、市民公募で選ばれたのが、「海と生きる」でした。海を生業としてきた気仙沼の人たちにとって、これまでも、そしてこれから先も海は自分たちと共にある存在だと認識されていました。海で被災をしたものの、復興していく術(すべ)も海にあるという決意からこのようなキャッチフレーズになったわけです。浦田先生のお話から、能登の人たちも「能登で生きている」だけではなくて、「能登と生きていく」という強さを感じました。今回の震災に遭っても、そこで停滞したり、衰退したりするものではなくて、豊かな能登の自然や文化、多様な地域遺産を誇れる教育資源として価値付け直すことが、私たちが「「○○と生きる」のはなぜか、「○○と生きる」とはどう生きていくことなのか」という「問い」を考え続けるための足がかりとなるということです。

これからのサステナブルな地域の在り方、教育の在り方を思い描くとき、これら3つの転換が震災からのレジリエンスであり、その先のイノベーションにもなると思いました。能登が目指す地域のあり方、教育のあり方を一つのESDモデルとして発信していただけたと思います。私たちESD-Jが見失うことなく目指すべき方向についてご示唆いただいた車座トークでした。

閉会挨拶

新海理事

新海理事

新海 洋子(ESD-J理事)
浅野理事からの三つの転換を起こしていくのは、我々であるということをしっかり覚えることが重要だと痛感しました。私は能登でくらしてはいないですが、能登の状況を想いつつ、自分の地域でどう暮らしていくかを考え続け行動することの重要性を再認識させられました。今回のセミナーは、「じぶんごとにする」「わたしにできることを考える」の2点を大切に行いました。私は今お話した2つのことが「わたしにできること」だと思っています。皆さまも今日の大切なキーワードである「じぶんごとにする」ということを考え続けていただければ幸いです。

【2024年度車座トークを実施して】 新海 洋子(ESD-J 理事)
能登の学びを「じぶんごと」に…。
今年度のESD-J車座トークの企画を検討した際に、そのテーマを「能登半島地震の被災地支援にしてはどうか」と提案が出され、議論を重ねました。その後、「被災状況にある能登の地域や人々が抱えている課題を『じぶんごと』とし、わたしにできることを学びあう場をもつこと」を目的に開催することとしました。

講師に浦田慎氏をお迎えし、所属されている能登里海教育研究所で取り組まれている「学校教育課程における体系的な海洋教育カリキュラム」の紹介をしていただきました。そのコンセプトや仕組み、ユニークなプログラム、学年を重ねて全校で取組む「里海科」は、多面的視点が取り入れられており、工夫があふれ、連携に富んで素晴らしく、授業実践には驚かされました。教材である「スルメイカ」をじっと見つめている子どもたちのまなざし、ワクワク感を想像しながらお聞きしました。

「能登の自然、里海、人々の営みを教材にした学びこそが、『能登への愛着』を育む。地震が発生して大変な状況にあっても『能登に学び、能登と生きている』子どもたちや人々がいる。一緒に学び続けていこう。一緒に行動し続けていこう」。浦田氏からそのようなメッセージを感覚的に受けとることができました。

「わたしの町はわたしがつくる。」能登での学びを「じぶんごと」として受けとめ、「わたしのまち」に活かす。つながりながら学びあい、行動する。それこそが「ESD」であり、ESD-Jの役割を再考する時間となりました。

🔶 一般社団法人能登里海教育研究所:https://notosatoumi.com/

発表資料(PDF)

発表資料(PDF)

【2024年度車座トーク アンケート結果(一部抜粋)】

参加者は一般20名、関係者7(合計:27名)であったが、講師の講演を聞き終えたら退席された方が多数おりアンケート回答は17名からしか得られなかった。

1.車座トークの内容はいかがでしたか。

2.その理由をお聞かせください。(一部抜粋)

🎤 日頃の活動を振り返る機会となりました。また、さまざまな人と繋がりながら、地道に活動していくことに大切さが身に染みました。能登モデルは、学校を中心とした地域コミュニティのレジリエンスの強化の好例かと思います。
🎤 能登の先生方の里海教育への情熱がよくつたわってきました。理解を助けるヒントを沢山貰い、考える機会を与えられた。
🎤 災害復興に関して直列な情報ではなく、元々の地域のつながり、地域の価値について日頃から海を環境に生きていることを実感できる海洋教育から気づいたこと。
🎤 海の環境教育の課題を、能登町ではオーダーメイド型授業に転換することで、どの様に解決して来たかを分かりやすくお聞きすることができた。能登半島地震に被害にも関わらず、小木小学校の磯観察が実施されたということにも、大変感銘を受けました。またイカを教材に使う取り組みが、能登町から東京や神奈川にも広がりを見せているという御紹介にも、勇気づけられた。
🎤 講師のお話が、刻々と状況が変わる中の現時点の、能登で活動する方ならではの、マスコミ等に切り取られないお話であったこと、そして、学校に教育プログラムを提供するうえでのスタンスや工夫も大変参考になったため。

3.車座トークに参加されての気づきや学びをお聞かせください。(一部抜粋)

🎤 先生と子どもたちの学びになるサポート体制の構築が大切だと思いました。また、学校の先生のニーズをきちんと受け止めて、作り上げていくことの重要性や、子どもたちの成長につながる機会創出など、課題の確認と自己反省の連続でした。
🎤 能登半島地震からの復旧・復興に際して、血の通った学びや復興の可能性を感じた。
🎤 海への関心を持たせるにあたってこちらが大切だと考えていることだけを伝えるのではなく、子供達の好奇心などにある程度任せた教育の方が関心に繋がりやすいといった、当たり前でもこれまで見落としていた視点を得られた。
🎤 第三者へ講師の依頼するときは、まずこちらの構想を伝え、何度か意見を交換し構想を共有化することが必要なこと。公教育はcommunication作りの場であり。それが災害等の際にも生きてくること。
🎤 公教育の場は地域のコミュニケーションをつくるために大事な場であり、それが防災面でも大事であることを再認識しました。
🎤 ふるさと、身近な地域、など表現はさまざまですが、暮らす地域について学び知ることがESDの第一歩だと改めて実感しました。

4. 車座トークに参加して、実践したくなったことはありますか。(一部抜粋)

🎤 自分が暮らす地域におけるコミュニティの再構築。
🎤 多様な人との関係の中で学んでいくことを大切にしたいと思いました。また普段、地域調査などで、フィールドワークに出かけるのですが、ここでは、こちらは介入せず、学生に調査を任せています。いろいろと言いたくなるのですが、そこをぐっと我慢しながら、学生の自発的な学習を見守る忍耐力も併せて養い、コーディネートしていきたいと思いました。
🎤 学校現場にいるので、可能なら学校にESDの要素が入った教育プログラムが入れられないか働きかける。
🎤 魚の捌き方教室など、魚食という極めて身近なところから海への関心を持たせる活動がしたい。
🎤 能登半島地震のこれからを考えるパネルディスカッション。
🎤 授業や演習の中で、防災とコミュニケーションについて考えていきたい。
🎤 引き続き、能登半島の支援活動にも地元の公教育にも関わっていきたいと考えています。
🎤 学校からの要望を子供たちが何に気づいて、何を身につけてほしいのかをもっと丁寧に先生方の要望を聞き、企画を練り直す。

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