天津の環境問題と企業の取り組みについて
【天津とは】
渤海湾に面する華北地方最大の貿易港があり、北京の南東約120キロに位置する港湾都市です。
人口は、約1,386万人、面積は約11,966km2です。北京とは高速道路、高速直通列車で結ばれており、高速道路では、約2時間、高速直通列車では、約30分の距離です。
【天津の気候】
夏は30度以上にあがるような暑さになり、他方冬は、最低気温が氷点下10度程度まで下がることもあります。春と秋が短く、5月のゴールデンウィークを過ぎると、夏の暑さを感じます。10月の国慶節連休を過ぎると寒さを感じ始めるといった感じです。
暑さ、寒さともに厳しいですが、日本のような湿度が無いため、比較的気温程の暑さ、寒さは感じません。
【天津へのトヨタ自動車進出と日系企業】
2000年代に入り、トヨタ自動車が中国第一汽車と合弁で天津一汽トヨタ汽車有限公司を設立し、カローラやクラウンといった車両の生産を開始しました。
それに伴い、トヨタ系の多くの日系サプライヤーがこぞって天津に自社の天津工場を設立しました。私の勤務する自動車部品製造会社も、2003年に天津に工場を設立しました。この動きにあわせて、多くの日系企業の進出が進み、天津に滞在する日本人の人数も増加しました。
【私と天津】
この天津の工場に2回出向勤務をしています。1度目は2011年~2015年迄の約5年間、2度目は2021年から現在迄の約2年半で、まだあと数年駐在予定です。
1度目は、家族帯同で赴任をしました。天津は日本人も多く、当時は約5,000人住んでいるといわれました。日本人コミュニティーもかなりの規模でありました。日本食レストラン、日本製品を販売する商店、日系のスーパーや日本人学校もあり、制限された状態ではありますが、日本人でも生活ができる町だと思います。
2度目は、2021年からで、コロナ禍の真最中に赴任をしました。中国へ入国後は、2週間+1週間のホテル隔離を経験しました。最初は2週間、1歩もホテルの部屋の外にでることができないことに耐えることができるのか心配でしたが、私も何とか耐えて、隔離生活から解放された時は、本当にうれしかったことを覚えています。
【天津の空気】
2011年に赴任した当時は、天津といえばいつも空が薄曇りで天気が良い日でも、青い空を見ることが非常に珍しかったです。
【天津の発電】
天津は火力発電では、主に石炭を使用しているようで、その火力発電による大気汚染の影響が大きかったようです。空気中に目に見えないような小さな粒子の微粉が舞っていて、前回赴任時は、朝一番に机の上を雑巾で拭いて掃除をしても、夕方になると微粒子がうっすら積もっているというような状態でした。今回の赴任ではそういったことはなくなりました。
【北京APEC】
2014年11月に北京でアジア太平洋経済協力(APEC)首脳会議が開催されました。その前には、北京の空をAPECブルーにするとのことで、天津を含めた地域で多くの工場稼働制限や交通規制が実施されました。確かにその期間は、APECブルーになったと記憶しています。
【天津の暖房】
天津をはじめ、中国の北方地域では、冬季になると政府がボイラーを使って暖房熱を供給します。天津は、通常毎年11月15日~翌年3月15日迄4か月間暖房が供給されます。基本、全館暖房供給のため、日本のように一部の部屋だけエアコンやファンヒーターで暖房するような建物より、こちらのほうがずっと暖かいです。
場合によっては、ボイラー暖房供給過多のため暑くなりすぎ、場合によっては窓を開けて暑さの調整をしているようなこともあります。エネルギーの観点からすると、大変ムダになってしまっているなあと思います。
【政府の企業に対する環境規制と対策】
私の1回目の赴任終了の2016年頃から天津市も環境問題について、重点的に管理をするような動きになってきました。例えば、大気汚染の原因物質であるVOC(揮発性有機化合物)等の有害物質の回収設備の導入等があります。従来は、大企業と言われる会社でも環境対策はあまりされていませんでした。
2017年頃から政府が要求する環境対策ができていない会社は、環境基準に達する迄稼働停止処分を受けるようになりました。私の勤務する天津工場でも、2017年頃から本格的に環境規制に対応すうように設備改造や環境設備の導入を実施しました。
【重汚染天気警報と設備稼働制限】
特に冬になると、ボイラー暖房の影響で大気汚染指数があがり、それに伴い、大気汚染警報が発令されます。
黄色、オレンジ色、赤色となるに従って大気汚染度が高くなるのですが、それと同時に稼働制限になります。
汚染度(色)により、生産設備の70~50%程度迄稼働が制限されることになります。
稼働制限があっても、得意先への納入を停止するわけにはいかないので、事前に在庫の作りだめをして、保管をするような措置をとりました。結果としては、お客様への納入で迷惑をかけることはなかったですが、工場生産としては、事前に在庫保管スペースを確保するなど、ムダが発生していました。
【2022年北京オリンピック対応】
2022年2月に北京オリンピックが開催されましたが、この時も環境対策ということで、大気汚染指数により稼働制限がかかる恐れがありました。得意先からの要請もあり、在庫の作りだめをするような指示がありました。それも製品によっては、1ヵ月以上の在庫確保を求められることもあり、自社工場内だけでは、保管ができず、外部の倉庫を借りて保管をしました。この時も、結局は稼働制限もなく、得意先納入への影響もなかったので、結果は良かったのですが、在庫保管費用の発生は、大変大きなものがありました。
【中国の環境問題への対応】
中国では、主に企業には環境規制と、それに伴う管理の厳格化、環境設備導入、環境問題に対する会社の組織、しくみの構築を強く求めるようになってきました。
この数年は、環境法令による監査、査察、法令違反に対する罰則適応が厳しく適応される傾向にあります。
当然、企業もその為の設備投資が必要になり、その予算を予め確保することが非常に重要になってきています。
【中国の学校での環境教育】
中国天津では、特に学校での環境教育は日本のそれのようには実施されていないようです。会社の同僚に子どもの通う学校で、環境教育をしているか聞きましたが、していないとの回答でした。SDGsやESDといった言葉をきくことはないですし、中国の学校では、時期尚早かもしれません。
SDGsのようなことは、日本を含めた外資企業で本国から中国の会社に展開がされ、そこで初めて聞くといったことが大半ではないかと思います。
【中国のカーボンニュートラル】
中国のカーボンニュートラルは、2030年にピークアウト、2060年にカーボンニュートラルといっています。日本とは日程が若干異なりますが、カーボンニュートラルを認識していることは確かです。
但し、先ずは取組みがしやすい企業に対して重点的に施策が講じられていていると思います。今後は、徐々にですが、一般生活や市民社会でも取り組みがされると思います。
【最後に】
中国は発展途上国の一面と、GDPで世界第2位の経済大国という一面が共存しています。沿海部と内陸部、都市と地方でも格差が大きいので、一概にいうことが難しいです。しかし、中国全体が安定して発展していくため、私たち外国人も、地域社会の一員として、自分が日本でも実践していた環境への取り組みについて、中国の実情に合わせて、会社内で採用し、社員への教育をしていくことを推進したいと思います。