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岡山市における公民館職員向けESD コーディネーター研修

1. はじめに

 岡山市では2005年に、学校や市民団体、企業、行政など、立場や分野の違う人たちが集まりESDを推進する「岡山ESDプロジェクト」が始まりました。岡山市の特徴のひとつは、市内に37ある公民館を地域のESD推進拠点と位置づけ、それぞれの地域でESDを進めていることです。岡山市はもともと公民館活動が盛んで、「共生のまちづくり」という公民館の指針とESDの理念が一致していたため受け入れやすかったのです。また公民館にとってもESDは公民館の存在意義を現代的な切り口から見直すよい機会と捉えられました。しかし、職員自身にとっても初めての「ESD」を地域で進めて行くためには職員の力を高めることが必須であることから、プロジェクトの事務局である岡山市環境保全課と中央公民館が協力しながら公民館職員向けESD研修を継続的に実施してきました。

中央公民館

2. 公民館職員を対象としたESD 研修の展開

 公民館というところはもともと市民が自ら学ぶ場として設置されたもので、子どもからおとなまで地域の多様な人々が利用します。公民館職員は彼らを支援する学びのコーディネーターの役割を持っているわけですから(岡山市はほぼ全館に社会教育主事を配置)、課題はESDをどう理解し、どう取り入れていくかでした。公民館では、以前から環境や国際理解などESDに通じるテーマの講座をいろいろ行っていたので、さらに何をすればよいのか職員はとまどいました。一方で、それまでの講座は、講師の話を聞く講義型か、自然体験や料理教室などの参加体験型がほとんどで、「勉強になりました」とか「楽しかった」という感想があっても、学びが個人で完結してしまう、地域の課題解決や社会参画などの実践に結びつかないという課題がありました。また、職員にとっても、司会進行はできてもファシリテーションの経験に乏しいという課題がありました。

3. 研修の内容と特色

 そこで、最初の研修は、2006年度に2日間実施した「魅力あるESD講座とは・・・公民館を通して地域にESDの学びを広げるには」でした。講師には、広島から人間科学研究所の志賀誠治さんをお願いし、以来、内容をその都度相談しながら下記のように研修を行いました。

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 ほかにも、「公民館と学校が連携するには」「さまざまな人や団体を巻き込むには」などの研修も実施し、また、市が行う教員や一般向けのESD研修やイベントの際には必ず公民館職員にも参加を呼びかけ、ESDの理解と、多様な人たちとの出会いと相互理解を深めて行きました。
 一方で、ESD研修と並行して、公民館職員でESDプロジェクトチームを作って自主研修を進めました。学んだことをどう実践で生かして行くかを考え、主催講座や他の研修などで企画実践し、報告し合い、評価指標をつくって実際に評価を行うなどの取り組みを行いました。こうした取り組みを合わせて進めることで、実践力をつけていきました。

4. 研修の成果と今後の課題
原さん写真_加工

 ESD研修で学んだことは、ESDに限らず公民館職員にとってさまざまな場で必要な知識や力、スキルであり、職員全体のESD力向上が、公民館利用者のエンパワーメント、ひいては地域力向上につながります。最初の研修で講師に言われたことは、「ESDはつながりの再構築」だということです。このことの意味をそれぞれの職員が自分ごととして腹落ちするまでにはたくさんの時間と試行錯誤が必要でした。しかし今ではあちこちの公民館で参加型の講座が組まれています。また、ひとつの講座だけでなくいくつかの講座や事業を総合的に組み合わせたり、他館との連携を行う館もあります。ESDは座学では身につきません。それぞれが自分なりのESDを実践の中からつかみ取っていくものだと思います。そのためにも段階的、継続的でOJT的な研修が必要ですが、課題としては、職員が全回出席することは業務の都合で難しく、なかなかESD研修の全体像が理解できず、総合的な力がつきにくいことです。

5. おわりに
重森 しおり

 現在、公民館では、地域の課題解決ができる人を育てるということをESDの目標にしています。まず地域の特徴を知り、よいところや課題を見つけ、それを解決するにはどうしたらいいか一緒に考え、実践していくというプロセスを市民と一緒に行います。参加型というのは講座のスタイルに留まるのではなく、公民館の運営、あり方そのものから見直す取り組みであり、持続可能な社会のあり方そのものだと思います。

<報告者>
上:岡山市ESD最終年会合準備室副主査 原 明子
1991年から(財)日本ユニセフ協会で学校向けの広報啓発・開発教育に携わる。2005年から岡山市役所でESDの推進を担当。ESDコーディネーターとして、ESDの広報、推進事業の企画運営、研修、渉外等行っている。現在は、2014年秋岡山市での「ESDに関するユネスコ世界会議」開催に向けて準備中。

下:岡山市立中央公民館 主任 重森しおり
就実大学で社会教育主事補の資格取得し、2000年、御津町教育委員会で社会教育主事補として採用。約3年間社会教育係社会教育主事として勤務。2005年に岡山市と合併後、2008年から岡山市立中央公民館指導係勤務。5年目。

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千葉県コミュニティプランニングコーディネーター育成講座

1. 育成講座のねらい

NPO 法人CoCoT は、平成23・24 年度「千葉県コミュニティプランニングコーディネーター育成講座」を開催している。
本講座では、3.11 の震災後の課題を踏まえて、平常時と災害時のいずれにおいても高いコーディネーション機能を発揮する専門性とスキルを身につけたコーディネーターの育成を目的としている。その目的達成のために、コーディネーターに必要不可欠な専門性・スキルを抽出し、習得することを目標とした。
また、身につけた専門性やスキルを継続・発展させるためには、サスティナブルな学習支援およびネットワーク形成が必要と考え、その体制づくりにも取り組んだ。
千葉県は、東京都に隣接した都市として住居地区となっている県北西部の一方で、東部や中南部では多くの地域で人口の減少している現状もある。それらを踏まえると、それぞれの地域特性や職場環境・雇用形態により、業務に対する考え方や取り組み方は、千差万別である。そのため、育成講座のプログラムは、地域特性を捨象した地域社会に対する働きかけについて共通の認識を導入の段階で持てるようにした。カリキュラムは、全体の構成を基礎領域と専門領域に分け、コーディネーターが持つコミュニティにおける役割の基本的な考え方や姿勢、基本技能を学ぶことを基礎領域とし、専門領域では現場研修も含めた応用技法の習得を目指した。

2. コミュニティプランニングコーディネーターとは

では、私たちが目指すコミュニティプランニングコーディネーターはどのようなものであろうか? これまでのボランティアコーディネーターは、支援対象の基本を個人とし、地域社会の中で一人ひとりの人権が尊重される状態を作り出す専門職として位置づけられてきた。
コミュニティプランニングコーディネーターは、基本を支援対象ではなく、プロセスに置いてある。極めて個人的な思いや不安要素を引き出し、社会的な俯瞰した視点から考察しその背景と潜在している地域課題を洗い出す。さらに、共感者、地域ネットワークへと段階的なマッチングとコーディネートを経て、課題解決に向かう。市民が地域の課題を自らの手で解決していくためのプロセスを作り出す専門職である。先に地域課題があり、その課題解決に向けて、必要な要素を洗い出し組み立てていくのが、コミュニティプランニングコーディネーターの仕事である。

地域社会には、近年の社会的課題の多様化・深刻化にともない、行政サービスだけでは対応しきれない社会的弱者の存在が顕著となっている。この人々に対しては、地域のきめ細かな課題に対応できるNPO のサービスを提供することが期待されている。NPO のサービスは1998 年のNPO 法施行以来、質量ともに増加したが、その情報量の多さが、逆に適切な判断を下しにくい状況を作っている。地域のなかで散逸した大量な地域課題・NPO の情報から、必要なデータを出さなくてはならない。そのまま提供するだけでは意味がない。情報を分析し、文脈化し、情報を有効活用できる“ かたち” に咀嚼して、必要とする人や組織に的確に渡すことのできる技術が必要である。更に、そうし
たNPO の情報を、社会的弱者とその支援者が入手し、活用することのできる体制を整備しなくてはならない。コミュニティプランニングコーディネーターは、「情報の目利き」である。

3. 育成講座の内容

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情報を取捨選択し、判断のプロセスに市民が参加していくことを支援するプロセスを描き実現に向けてマネジメントしていくための力量をどのようにつけていくか。以下は講座の内容である。

〔対象〕千葉県内の市民活動に関わる組織や団体(中間支援組織のスタッフ・就職希望者、自治会、ボランティアを受け入れている団体、施設のスタッフなど)
〔期間〕4 ヶ月間
〔内容〕次のカリキュラム参照のこと
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4. 育成講座の効果

育成講座を通じて「地域課題を把握する力」「情報を収集し活用する力」「企画立案力」の3 点のコーディネーションスキルと実践力をつけることを目標とした。そして、その目標が達成されていることを示す指標を「研修終了後に研修参加者の住む地域の課題解決コーディネートプランが出来上がっていること」に置いた。市民活動センターや社会福祉協議会での実地研修もカリキュラムとして取り入れた。これによって机上の空論で終わらない学びや気づきを研修参加者に提供することができた。
実地研修後にコーディネートプランの内容が深まった参加者も少なくない。
「コミュニティプランニングコーディネーター育成講座 修了式」におけるコーディネートプラン・成果発表では、実際に10のコーディネートプランが発表された。なかにはすでにプランに基づいてプロジェクトが立ち上がっているケースもあった。育成講座が実践的なものであったことを示している。

5. 今後の課題

①継続的にコーディネーターを教育する体制が整っていない実際に市民活動センターや社会福祉協議会でコーディネートを体験する実地研修もカリキュラムとして取り入れ、現場を見て知り体験することの有用性が高いことが明らかとなった一方で、受け入れ態勢の脆弱性も浮き彫りになった。受け入れ施設においても、それぞれのプログラム内容の質に大きなバラつきがあった。恒常的実践的な教育体制の整備と専門職養成の教育カリキュラムの確立は不可欠である。コーディネーターがその高い専門性・スキルを維持・開発していくことにおいても、日ごろからトレーニングできる環境と教育機関を整えておくべきであろう。

②コーディネーターが社会的に認知され活躍できる土壌がまだまだ育まれていない高い専門性・スキルを持ったコーディネーターを養成しても、それを充分に発揮できるポジションやフィールド、チャンスなどが与えられなければ意味がないといえよう。歴史的にボランティアコーディネーターという呼称を用いて配属してきた社会福祉協議会に対して、公設の中間支援センターではコーディネーターを配置しているセンターは未だに少ない。社会福祉協議会においても、非常勤職員や、常勤職員でも兼職をしているなど、専門職としての位置付けをしているところは多くない。こういった実情を踏まえると、育成された人材がその力を発揮できる職域の開拓はこれからの大きな課題である。

<報告者>
小山淳子氏写真
NPO 法人コミュニティ・コーディネーターズ・タンク CoCoT 副代表理事 小山淳子

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