茨城:共創空間をコーディネートする人材とESDセンターをつくる

1. 課題意識 きっかけ

茨城におけるコーディネーター研修の背景には次の3 つがあった。

① タコツボ化した市民団体を開き、つなぎながら新たな活動ユニットをつくる必要性
② 茨城県新しい公共推進指針を具体的に展開する必要性
③ 遊休施設を市民が活用できる可能性

①は、15 年間、茨城のNPO 法人の設立運営相談や研修を行ってきた中で感じていたことで、多くの団体が、目の前の事業に追われて周りにある資源に気づかず、動ける人がいないと内にこもりつつある。本来、学びと参加の受け皿であるはずのNPO がそうなっていないため、組織を開き、横につなぐことが、組織や地域の持続性の点からも必要だと感じていた。

②は、平成25 年3 月に茨城県が公表した「新しい公共推進指針」で提起されたコーディネーターの養成である。指針は、マルチステークホルダープロセスで策定され、当法人がとりまとめを担当した。学びあい、助け合い、組織の協働、多様な働き方、社会貢献を応援する、の5 つの仕組みを、市民団体、社会教育をはじめとする行政機関、経済界、労働界、メディアなどが連携して具体化していくというのが指針の中身である。その仕組みをつくるために、コーディネーターの育成を具体化する必要があった。

③は、近年、廃校の活用や遊休施設のリニューアルに関する市民団体、事業所からの相談が相次いだことである。特に、水戸市における2 つの遊休施設(大工町の「トモスみと」業務ビルフロアと、双葉台ショッピングセンター)に関しては、市民団体の活動拠点として提案したり、実験ができることになったので、常設型のESD センターの設置を目指して、仕組みづくりと、担い手づくりと、場づくりをセットで実施することにした。

2. 研修のオーガナイズ

研修は、次のねらいのもとで対象設定を行った。
【ねらい】地域の遊休施設など地域の資源を活用したり、多様な主体のコラボレーションを仕掛けることで、学びあい、助け合いをコーディネートする力を高め、多様な学びと活動の拠点と、人的ネットワークを築く。
【対 象】 各分野(環境、国際協力、バリアフリー、農業、福祉まちづくり、多文化共生)のキーパーソンとして、ネットワークづくりを仕掛けている人、場の提供を通じて地域貢献に関わりたい金融機関や不動産会社、大学の関係者(非公募15 名)

ibaraki

3. 研修で実践した企画

茨城の研修は、水戸市大工町の「トモスみと」の未使用フロアに、地域で様々な活動をしている人や地域の課題を集め、知恵やアイディアを融合させて新たな活動、つながりを生み出すため、フューチャーセンターセッションを企画運営することをOJT と位置づけた。そのため、4 回にわたるコーディネーター研修は、イベントの企画会議を兼ねた内容となった。研修のトレーナーにはESD-J の森良さんに継続して関わっていただいた。

以下、プロセスに応じて何を考え、生み出し、気づいたかについて報告する。

1 回目は、共創空間とそのコーディネーターの役割について考えた。共創空間とは、行政や誰かに与えられる場ではなく、最近増えている廃校や廃屋、空き店舗などの空間を利用しながら、異質な者同士が何らかの課題解決のために資源をもちよって新たに想像していく場として定義し、東京や栃木の廃校活用事例を紹介した。また、つくば市で古民家を改装したギャラリーなどを手がけるゲストの経験談もききながら、次のようなコツを学んだ。

• アートや魂を込めた表現活動は、人のこころを拓く力をもっている。
• つなぎ手は、場を求める人の想いと人を見極めながら、つながりづくりをサポートする。
• 人の夢を叶える場をつくること、それがフューチャーセンターであり共創空間である。

その話を踏まえた上で、トモスにどんな人を集め、どんな話をしてもらいたいかをカードに書き出すワークを行った。多様な立場の研修生がいたので、でてきたテーマも実に多様だったが、テーマをクロスさせること、対話と共感から自発的な活動を生み出すことがESD だと確認した。

2 回目は、どうしたら限られた時間で互いに知り合えるか、自己紹介や討議グループのつくり方について検討した。その結果、自分の強みや求めることを紙にかいて体の前後につける「サンドイッチマン方式」の自己紹介が採用された。さらに、自分が関心のあるテーマについて、どんな多様な関係者がいるかをカードに書きだすワークを行い、地域に多様なステークホルダーがいることに気づいた。その上で、誰が誰に声かけをするとよいかを互いに確認し、各自が参加を呼びかけた。

3 回目は、フューチャーセンターセッションの開始前に、次のことを検討しながらプログラムの修正、参加者の関心事項を頭に入れる作業を2 時間行った。

• 人をつなぐ仲人役として、コーディネーターは、どう存在を示して参加者に接するか
• 出会いを楽しみながら、自由に話せる空気をつくるために、どんなルールを示すか

そして3 時間のセッションで、仲人役として、その場で工夫しながら、つなぎ役を実践した。当日は、80 名もの参加があり、このような企画の継続を望む声が多く聞かれた。

4 回目は、研修の振り返りを行いつつ、セッションで生まれた共創の種である事業アイディアを具体化させるための次のセッションを企画した。

4. これまでの成果

コーディネーターは、上記のようなOJT 研修を通じて、特定の分野ばかり考えていた自分に気づき、異分野、異業種とつながる意義や、提案したり共感、共創したりすることの大切さ、を感じた。また、多様な背景をもつコーディネターがいることで、誰もが気軽に参加して話せるワールドカフェの要素と、異業種での協働実践につなげる地域円卓会議の要素をあわせもったフューチャーセンターセッションが行えることもわかった。

5. 課題と今後に向けた動き

セッションの参加者の多くは、生まれたアイディアの次の展開に関心と参加意欲をもっているので、火を消さないように提案者をフォローしつつテーマ毎にゴールを明確にした上で、新たな参加者を募り、セッションを続け、事業を具体化していくのが、今後のミッションである。そして、常にコーディネーターが集える常設のESD センターを水戸に実現したい。

① 障害への理解 × 映画上映 ⇒ 居場所づくり
② フェアトレード × 販売場所 ⇒ 買い物で社会貢献
③ 遊休農地 × 園芸療法    ⇒ ユニバーサル農業
④ 多国籍 × 親子参加行事  ⇒ 多文化共生の街
⑤ 学びのサポート × 居場所 ⇒ 子どもの貧困防止
⑥ 学校教育 × ESD × 地域の協力 ⇒ 家庭廃油の循環

横田photo2横田 能洋(よこた よしひろ)
認定NPO 法人茨城NPO センター・コモンズ事務局長。
NPO の運営相談や人材育成に取り組むほか、地域での組織間連携による課題解決を目指して、多文化共生、労働問題、教育、寄付推進に関して円卓会議を運営し、事業化も行っている。

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