1. はじめに
今回ESD コーディネーター研修を広島地区で行うことになり、これまでにも岡山市などでESD の研修に数多く携わっている人間科学研究所の志賀誠治さんと、広島を中心としたまちづくり事業に関わっているNPO 法人ひろしまジン大学の平尾順平さんと議論を重ねました。
この中で浮かび上がってきた課題は以下のような二点です。
① 優れたテーマの設定により事業の盛り上がりはあるが、どこでもできるような、地域性に乏しい事業がコーディネートされている場合がある。
② ①と逆で、地域に密着した事業ではあるが、マンネリ化しており新しい切り口やテーマ性に乏しい事業がコーディネートされている場合がある。
そこで今回の研修のテーマとして「地域とテーマの幸せな出会い」を設定しました。ESD の事業を展開していく上では「地域性」と「テーマ性」の両方がうまく出会っていく必要があると考えています。上記のような課題が発生しているのは、地域とテーマがうまく出会っていないため、もしくはどちらかのみが機能しているためであると考えられます。そこで、本研修では、コーディネーターが事業に関わるステークホルダーにとって魅力的なテーマ性をつくると同時に、特定の地域にこだわり地域の持続可能性というキーワードが浮かび上がってくる事業を展開できるようになることを目指していきます。現在、様々な地域でコーディネーターの働きをしている人びとに、改めて「持続可能性」というキーワードを認識してもらうためにも「地域とテーマの幸せな出会い」は大切なメッセージになっていくと考えています。
また、ESD は言葉や概念として認識してもらいにくいという傾向があります。ESD という言葉を知っている側からすると、人と人をつないで持続可能性をテーマにした事業を展開するコーディネーターは存在しているけれども、そのコーディネーター達はESD という言葉は知らないということがよくあります。
このような既存のコーディネーター達をESD コーディネーター研修に参加してもらうとなると「ESD コーディネーター研修」という名前は広報上使いにくいということがあります。
つまり、彼らにとって分かりやすい単語での研修名が必要であるということになります。そこで今回のESD コーディネーター研修では、「地域コーディネータースクール」という名称で広報することにしました。こうすることによって、主に環境省や文部科学省の枠組みの中でESD という言葉に触れてこなかった、まちづくりや中山間地域振興に関わるコーディネーターにも分かりやすく捉えられたと感じています。
2. 研修対象の工夫と組み立て方
漠然と「地域コーディネーターを養成します」という看板では広報が困難であることが予想されたため、まずはひろしまジン大学で活躍する事業コーディネーターを対象として想定しました。
彼らの中には先に挙げた課題を抱えている方もおり、強い関心を持つ方も数多くいると感じていました。彼らを基軸にさらに、フューチャーセンター、中山間地域振興に関わるNPO 関係者、公民館関係者、中国環境パートナーシップ職員等幅広い参加者に直接呼びかけて参加を促しました。このように、募集対象を具体的に絞り込んでから呼びかけていくことはコーディネーター研修の広報としては必要な手続きではないかと考えています。
また、具体的な参加者像が見えたところで、彼らの動機を高めるようなゲスト発表者を選定していきました。今回は特に、地域性とテーマ性のバランスをとりながら活動をしている実践者として、高知のNPO 法人砂浜美術館から村上健太郎理事長に発表して頂くことにしました。砂浜美術館では有名な「T シャツアート」の他にも、地域の調味料を見直すプロジェクト「さしすせそ計画」などいずれも、地域の資源を活用しながらデザインやテーマ性に富んだ事業を展開しています。今回の「地域とテーマの幸せな出会い」というテーマにはぴったりの題材です。
3. 研修企画の中身と工夫
今回のESD コーディネーター研修の与件としては、コーディネーターの現場で実践しながら研修効果を検証していくOJT(On the Job Training)型で行うということが挙げられます。
そこで、今回は左下の図のように3 回の集合研修(第1 回:オリエンテーションと企画/ 1 泊2 日、第2 回:企画の発表と共有/ 1 日日帰り、第3 回:実施した企画の評価/ 1 日日帰り)とその間にOJT を入れて行う方法としました。OJT の間にはサロンと称する主催者側との相談会、Facebook グループによる情報共有、および相互の実践現場視察をフォローアップとして行っていくことにしました。
研修全体の目標としては、「ESD の視点がない、もしくは意識化されていない参加者(コーディネーター)が、ESD を自分の言葉で捉え自らの活動に活かすことができる。」を設定しました。
また、第1 回目の集合研修の目標としては、1)ESDの視点が盛り込まれた企画書を書くことができる。2)お互いから刺激を受け視野が広がる。3)合宿感覚でやる気が高まる。の3 点を設定しました。第1 回目の集合研修の中ではESD の概念にも触れ、「自分たちの地域で未来に残したいことは何か?」という問いを考えながら、各参加者が実践していく企画を考えるという内容にしました。
また、これまでいろいろな形でコーディネーターの現場を踏んできた参加者同士で用語の使い方の共通認識を持つためにも、企画やプログラムデザインといった内容の講義も行いました。
4. 第1 回集合研修の成果
第1 回集合研修は20 名の参加者が参加しました。当初想定していた参加者層が呼びかけによって参加しました。様々な地域性やテーマ性を持ち寄り、個人もしくはチームで企画の種を作っていきました。その結果、「選挙と民主主義」「公民館と中間支援組織との連携事業」「中山間地域での子ども向けプログラム開発」「地域での葬儀」「子どもキャリア教育」「小規模商店街のマルシェ」といったタイトルの企画が練り上げられてきました。企画を作成する過程でチームの離合集散がありましたが、各コーディネーターが最善のパフォーマンスを発揮するためには必要な過程と考えています。
5. 課題と今後に向けた動き
原稿執筆時点ではこれから第2 回集合研修がはじまろうとしているところです。この形の研修では、個人での企画が多ければ多いほど、主催者側での企画の確認が煩雑になる欠点があります。限られたマンパワーの中で企画を確認・修正し、よりよい研修結果がでるよう、参加者と主催者側とで調整していくことが必要とされます。また、日々の業務で多忙なコーディネーター達の進捗を確認しながら、研修期間内での成果を出せるよう臨機応変に声かけしていくことが主催者側に求められていると感じています。研修期間を終え改めて報告する機会にまた、全体を通じての課題や改善案を記述したいと考えています。
河野 宏樹(こうの ひろき)
環境教育事務所Leaf 代表。
学校、企業、自治体、公益法人等との協働を通じて環境・平和・国際協力を中心とした教育事業を行なうとともに、参加体験型学習のプログラム開発や指導者養成を行なっている。NPO 法人これからの学びネットワーク理事、NPO 法人ひろしまジン大学理事も兼務。