活動内容

人材育成

【報告】ESD-Jオンラインセミナー「JARTAによるサステナブルツーリズムに向けた活動」

文責:鈴木 克徳

    • 日時:2025年1月31日(金)19:00~20:30
    • 司会:鈴木 克徳(ESD-J代表理事)(敬称略。以下同じ。)
    • 講演者:高山 傑(takayama masaru): 一般社団法人責任ある旅行会社アライアンス(JARTA)代表理事、渋谷 武明(shibuya takeaki): JARTA国際認証部門統括部門⾧
    • 参加者:17名
    • プログラム:

19:00 開会、趣旨説明
19:05高山JARTA代表理事挨拶
19:10 「現在の観光の状況と持続可能な観光運営に取り組むJARTAの活動」 渋谷JARTA国際認証部⾧
19:40 「国際的な持続可能な観光の動向」 高山JARTA代表理事
20:00 質疑応答、ESD-JとJARTAの協働に関するコメント
20:40 閉会

○開会
・司会の鈴木理事より、これまでのESD-JとJARTAとの交流の経緯について説明。昨年3月以来、意見交換を始め、昨年9月のJARTAのシンポジウムに横田事務局長が参加し、12月にはJARTAの勉強会で鈴木が環境問題について講演した。今回のセミナーは、今後の連携協力の推進に向けた議論に資するよう、ESD-J会員にJARTAの活動を知っていただくことを目的とした。

○高山JARTA代表理事挨拶

  ・JARTAは、観光庁設置とほぼ同時期に設立された比較的新しい団体。
・旅行業界には環境問題に疎い人たちも多い。ともに、環境問題に関する彼らへの教育・研修を進められることを期待。

 

○渋谷JARTA国際認証部⾧によるJARTAの活動紹介

・ESD-Jへの期待は連携と協働。今後観光は社会変革の手段としてますます重要になるが、社会に貢献できるようにするためには環境教育が非常に重要。
・JARTAは、Blue Flag、Green Key、Travelifeという3つの国際認証を扱っている。Blue FlagとGreen Keyは、デンマークのFoundation for Environmental Education(FEE)による国際認証制度で、JARTAは2021年にFEE JapanからBlue Flag認証、Green Key認証の日本の窓口を引き継いだ。
・JARTAのミッションは、日本に持続可能な観光運営を実現し、旅を通じて旅に関わるすべての人、動植物、地域、環境を幸せにすること。
・Green Keyは宿泊施設が、Blue Flagはビーチが対象だが、それらをつなぎ、日本全体で持続可能な観光を実現したい。
・Green Key認証やBlue Flag認証では、マネジメントと教育が2つの大きな柱。ESD-Jと、教育分野での講演、研修、啓蒙活動に関する連携・協働を期待する。
・世界的には観光は重要産業になっている。日本でもインバウンドが著しく成長している。
・三大都市圏だけでなく、地方での観光も増えつつあるが、受け入れ側において過疎高齢化等により観光が成り立たなくなるケースもある。持続可能な観光を推進するためには、地域が健全であることが必要。そのためには、旅行会社・観光事業者と、地域の連携が重要。
・最近の観光の特徴として、贅沢満喫から体験型に変わりつつある。また、ツーリストシップ、旅行者の心構えが重視されるようになっている。
・サステナブルツーリズムには国連の定義がある。
・観光開発においてカギとなる環境資源を最適な形で活用すべき。
・すべてのステークホルダーに公平な形で社会経済的な利益を配分すべき。
・地域の良好な環境、暮らしが土台になり地域の産業が成り立つ。観光業者にそのような認識を広めることが重要。資源を食い尽くすようなビジネスからの脱却が必要。

○高山JARTA代表理事による国際的な持続可能な観光に関する動向とJARTAの活動に関する講演
・エコツーリズムに1990年代から長く関わって来た。以前は持続可能な観光とは言わず、オルタナティブ・ツーリズムと言っていた。
・本日は、持続可能な観光、地球市民の責務、日本での観光の位置づけ、EUの環境訴求指令案、観光認証とJARTAの活動について話す。
・持続可能な観光を考える場合、訪問客や業界、環境に加え、地域の生活や文化、経済との関係が重要。
・観光は目的ではなく、地域の住民や暮らしをより良くするための手段。消滅可能自治体などにおいて観光がどのように役立ち得るか考えることが重要。
・気候変動との関係では、観光業による排出量は8%、そのうち交通機関によるものが49%、宿泊施設からは6%である。CO2排出量の少ないフライト選びや、電力消費の57%を占めるホテルの空調・照明対策等、フードロス削減、ビーガン食やベジタリアン食のような肉以外の多様な食の提供等が重要。
・EUは2023年3月にグリーンウォッシュ規制に関する第三者認証に係るEU指令案を公表。観光業もそれを踏まえる必要がある。
・観光に関する持続可能性認証のスタンダードや枠組みとしては、グローバル・サステナブル・ツーリズム協議会(Global Sustainable Tourism Council:GSTC)が2022年10月に定めた国際基準(Global Sustainable Tourism Criteria: GSTC)があり、それに準拠することが求められる。観光に関する法規制についてしっかり学ぶ必要性を感じている。
・英語ではあるが、FEEにより地球環境に関する動画も作成されているので、まだまだ認識が希薄な旅行業界に一層普及する必要性を感じている。

○日本エコツーリズムセンター森高一共同代表理事のコメント
・高山氏は長く観光と環境に関わりこの分野を牽引してきた第一人者。
・これまで教育関係者は観光分野との縁が少なかったかもしれないが、極めて教育が重要な業界である。
・観光は、持続可能な地域づくりと表裏一体とみなされるべき。国際的、国内的な取組が進みつつある中で、観光の中にESD的な視点を取り込むことは大変タイムリーであり、ぜひ進めていただきたい。

○質疑・コメント
・これからの観光を考える場合、国内の需要はそれほど伸びず、インバウンドが大きく伸びる。持続可能な地域社会づくりに際し、インバウンドにどう対処するかがますます重要になる。
・インバウンドを意識すると、国際認証の取得は大きな効果が期待できる。その中の教育・研修や啓発活動に関してESDが重要な役割を果たせるのではないか。
・地域で生計を立てていくうえで、観光が大きな役割を果たせる可能性がある。そのため、観光業界に対する環境教育というだけでなく、持続可能な地域づくりに観光が果たし得る役割は何かにつき、観光業者と地域の人々、(観光客)等が連携して取り組むことが期待される。
・環境省が持続可能な観光に関心を示すようになり、観光庁の資金を用いて持続可能な観光に関する調査を始めている。
・富山県の八尾町の限界集落で何かをできないか村人と一緒に模索を始めている。本日は移動中のため、機会を改めて勉強させてもらいたい。
・北九州には観光客や留学生が多く来ているが、食事の問題で困ることが多い。ビーガン食やベジタリアン食等、様々な食事制限のある人たちへの食事の提供についてはどのように考えられているのか?
→Happy Cow(https://www.happycow.net)というサイトで世界中のビーガン食、ベジタリアン食等に対応したレストラン一覧が示されているので、北九州を検索してもらうと北九州での対応レストランが分かる。Green Key認証では食事制限への対応も求めている。
・近年生物多様性に対する関心が高まっているが、生物多様性と文化や祭り等を含めたものを地域の観光資源ととらえ、地域とともに持続可能な地域社会づくりに取り組めると良い。
・Green Key認証は、欧州的な発想が強く出ているように感じる。それを日本的にどう解釈・運用すると良いか考えることも重要。
・埼玉県の飯能市はエコツーリズムに熱心に取り組んでいるが、従事者の高齢化が問題になっている。プログラム単価が安いため、若い人たちの参入が難しいのが現状。若い人たちの参入促進に向けた何か良い方策はあるか?
→インバウンドの単価は大変高い水準にあり、平均すると旅行業でも1日5万円とか、個人の場合には600ドルくらいを得ている。飯能ではその水準に届いていない可能性がある。地域の食、文化などを含めた総合的な観光開発を行うことにより、単価の高いインバウンドの招致が可能になるのではないか。2020年6月に「日本版持続可能な観光ガイドライン」が観光庁から発行され、その中で幅広く持続可能な観光について記されているので参考になると思う。

◆日本版持続可能な観光ガイドライン:https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/810000951.pdf
→インバウンドの登場により観光に関する価値観が大きく変わりつつあるが、従来からの観光業者は古い価値観に基づいて活動をしている人が多い。飯能では、インバウンドを意識すれば大きな収入が落ちることにより、若い人たちがのびのびと活躍できる可能性があると思う。
・日本はエコツーリズムを自治体が認証するという独自システムをとっているが、アジアの他の国と異なり、エコツーリズムとインバウンドとを結びつけていない。例えば日本と台湾、韓国の観光を組み合わせるような国際的な連携を図ることにより、さらに魅力を高めることができるのではないか。
・これまで教育の世界と観光とは結びつきが弱かったように思われるので、これを機会に引き続き観光とESDの関係、持続可能な地域づくりに果たし得る観光の役割についての議論を深めていけると良い。

○総括コメント
・森氏:観光と教育とを分けて考える必要はないのではないか。また、観光客というよりは、人口の移動という視点が重要。サステナビリティは持続することが重要で、現状維持ではなく、どんどん新陳代謝すると柔軟に考える方が良い。
・高山氏:本日がスタートと思う。ベクトルは同じと考えるので、引き続き議論を深めていくことを期待する。
・渋谷氏:本日はGreen Key認証 を中心に議論したが、地域との関係を考えると、Blue Flag認証の方がESD-Jとの親和性が高いかもしれない。地域の観光資源を収奪するような形ではなく、守っていくような取組が重要と思う。

 <<アンケート集計結果>>
 参加者計17名(司会1名、関係者3名、ESD-J事務局1名含む)、アンケート回答者:9名

1.活動地域

    • 北海道 1名
    • 関東地方 1名
    • 東京 1名
    • 千葉県 1名
    • 富山 1名
    • 岡山県 1名
    • 北九州市、沖縄県与那原町 1名
    • 全国 4名

2.本日参加されての気づきや学びをお聞かせください

  • 観光は、資金・収益を得るためにも重要なので、サステイナブルな観光のないようを理解することができてよかった。
  • ESDに関わるメンバーが、もっとこうした分野の取り組みに関心持ち、コミットしていくのが必要と思う。
  • JALTAさんの活動の全体概要をうかがうことができたことから、(観光者/受け入れ側の人・地域・そこをつなぐ人観光業界の人)すべての人の意識変容・意識改革が持続可能な社会づくりにつながると確信しました。観光庁と環境省文科省の横のつながりをサポートできれば面白い。例えば全国の国立青少年の家のプログラムに観光客を受け入れてもらうとか。環境省が行っている水辺の生き物調査で学校の子供たちが参加する場に観光客の参画ができれば生物多様性の現場の学びや国際交流で次の展開の可能性も出てくるとか。大阪万博でマイクロプラスチックの課題を扱うがーるすかうとのプログラムに観光客が参加できるようにするとか。
  • 生態学や自然科学の分野で博士号を取得したものの、安定した活躍の場を得られなかったメンバーで会社を立ち上げ、科学知見を活用し、環境学習の要素もとりいれたビジネスを模索中ということもあり、今回のセミナーに参加させていただきました。ビジネス寄りの感想になってしまいますが、インバウンドの方々の意識を知ることができ、挑戦してみようという気持ちになりました。また、持続可能な観光は、持続可能な社会への変革の手段になりうる、という考え方や、地域づくりの中に位置づけられるという考え方に、ハッとさせられました。サービスのみならず、ステークホルダーも含めた事業の在り方を通じて、わたしたちも貢献していければと思います。このような分野のお話を聞くのが初めてで、おそらく咀嚼しきれていないことがたくさんあるかと思いますが、大変勉強になる有意義な時間をありがとうございました。
  • 観光分野と教育分野の共通点と協働の可能性
  • 地域の資源が資本になってしまわないように、地域を守りつつ、創生していくことの大切さを再認識しました。
  • JARTAとの連携に関し、単なる県雌雄の提供だけでなく、より幅広い観点からの持続可能な社会づくりに向けた観光、特にインバウンドの貢献について考える日ことができると感じました。
  • JARTAのお二人のご説明により観光とESD、教育との関連性に関する理解がより深まりました。環境は目的でなく地域を活性化するための手段であるという言葉が非常に印象に残りました。観光の在り方については、地域の人が望む形であることが必須であるのに、ないがしろにされがちなので、経済優先の考え方を改めるためにも観光をデザインする人の教育や消費者教育にも力を入れることも必要だと思いました。

4.ESD-JがJARTA等と協力して今後1年以内にサステナブルツーリズム推進に向けた研修を始めることについて、賛否を含めてご意見をお願いします。(全員賛同)

  • 賛成の場合には、研修企画に参加・貢献していただけるでしょうか?(参加・貢献します 6名、現時点では、分かりません 3名)
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