報告:事務局 横田美保、所感:東北地方担当 浅野 亮理事
2023年8月5日(土)に地球温暖化に挑む海洋教育プログラム研究会主催のオンライン研修会がハイブリッドで開催されました。この研修会は、地球温暖化を児童・生徒が自分事と考えるための教育プログラムについて、大学及び社会教育施設研究者と学校教育関係者での共同研究により考案したモデル事例を学び合う目的で開催されました。
まず、「地球温暖化とは」、「地球温暖化についての教育の必要性」という2つの講話により地球温暖化の現状、その課題に対応するための教育の在り方について発表されました。
続いて、以下の4つの事例が紹介されました。
報告(1)「水産業と地球温暖化~気仙沼の事例から」
千田 康太氏(気仙沼市立鹿折小学校 教諭/宮城教育大学教職大学院)、丹羽 淑博氏(国立極地研究所 特任研究員)
🟦要旨:気仙沼の魚の水揚げ量と気温の変化の関係性についてデータを分析し、温暖化の影響を考察。更に海流の循環、潮目の仕組みと温暖化の影響を理解するための実験を行った。水産業を介したキリバスとのオンライン交流も実施した。生徒は温暖化対策に繋がる取組を実践し、地域の一員として行動する力を培った。
🟦主な成果:専門機関との連携により、現状や原因を正しく捉える情報が得られたこと で、問題の複雑さを可視化することができ、論理的思考の育成が行えた。また、教科学習との横断で自然・身の回りの社会を見る目を養うことができた。
報告(2)「防災/減災と地球温暖化~大牟田の事例から」
馬籠 秀典氏(大牟田市立上内小学校校長)、茅根 創氏
🟦要旨:「自助、共助の視点で減災への意識を高め、日頃の備えや心構え、災害発生時、復旧時における適切な判断力や行動力を身に付ける」事を目標に防災・減災、気候変動学習を行った。具体的には、豪雨の原因追及と温暖化の関連性の学習、それに基づく自分達に出来る事の考察、防災バッグの中身の検討や危険箇所の調査、地域への情報発信等を行った。
🟦主な成果:「年代別の地図」や「今昔マップ」の活用からは、土地活用の歴史的な変化を学び、今後の自助・共助の観点からの行動を考える上で有効であった。大学の先生との連携により、専門的な情報提供やICTの活用が得られ、より効果的な学習となった。
報告(3)「生物多様性と地球温暖化~気仙沼の事例から」
畠山 昭洋氏(気仙沼市立大谷小学校(前鹿折小学校)主幹教諭)、高田 浩二氏(海と博物館研究所 所長)
🟦要旨:生徒が環境保全の役割を理解し、問題解決のより妥当な考えを見つけ、学びを生活に活かす能力の育成を目指した。専門的知識による学習の裏付けを行い、魚類にとっての水温の意味、多様な命に支えられる食等への理解を深め、地域産業及び自分の生活との関連を実感できる学びを創出した。
🟦主な成果:博物館・大学・公民館との連携により、専門的な情報を得て、生物多様性の必要性と重要性の認識、海水温の変化が生態系のバランスの維持に及ぼす影響の理解、自分の住む地域と学習との関連性、学習したことを自分事として考える意識の向上等が図れた。ジンベエザメのお墓にまつわるエピソードは、歴史、命のつながりについて考える貴重な地域の教育教材であった。
報告(4)「博物館との連携~下関と都城の事例から」
林 健太郎氏((独)国立科学博物館事業推進部学習課(学校連携担当))
🟦要旨:博物館の資源を活用し、生物の多様化、地球温暖化に関する授業を実施した。オンラインの授業では、3DビューやVRを活用し、バーチャルで博物館内を自由に見て回り、特定の展示物を探し出す等のアクティビティも行った。
🟦主な成果:博物館資源を活用した授業の学校教育への有効性が確認でき、オンラインを活用することにより、来館することが難しい遠方の学校等にもプログラムを実施することができた。
本研究会の主な成果としては、「地球温暖化に挑む」という研究テーマに基づき、探究的・協働的・教科横断的・往還的なカリキュラム/授業づくりについて、並びに大学や博物館等と学校が連携・協働する必要性とそのためのノウハウについて、実践を通して提案・発信できた事が挙げられます。加えて、ESDや海洋教育に関心のある方,実践されている方など,地域や分野,立場を超えて多くの方々が学び合う場を提供できたことも挙げられます。
浅野理事の所感:
私たち、地球温暖化に挑む海洋教育プログラム研究会は、地球温暖化という地球規模で起きている大きな問題を学校でどのように扱い、教え、学ぶことができるのか、実際に気仙沼市と大牟田市の2つの小学校でのモデル授業を通して検討を重ねてきました。グローバルな問題であるがゆえ、地球温暖化は子供たちにとって理解しづらく、先生方にとっても教えづらい内容です。しかも学習指導要領には指導すべき事項として明確に示されておらず、また専門的な知識と情報、根拠と分析とともに、より探究的で行動化に繋げる学習計画が必要となります。大学等の研究者と博物館等の社会教育関係者、教育委員会と学校教員が共同で取り組んだ意義と教員等を対象の研修会とした目的はそこにあります。
研修会の詳細については上述した通りですが、教員をはじめ、当日オンライン参加された多くの方々からの反響は大きかったです。地球温暖化そのものに関する発生メカニズムと影響、地球温暖化についての教育の必要性、持続可能な社会の創り手を育む教育(ESD)と海洋教育の重要性等に関する講話と3つの具体的な実践事例の提案を一貫した繋がある文脈として、教員と児童・生徒の目線に立った内容としたことが参加者の関心と理解を深めた要因の一つと捉えています。時間的な制約があったため、今回の研修会では限定されたテーマと地域、校種での実践とせざるを得なかったですが、今後は他地域や他校種等へと実践を広げつつ、本研究会の果たした効果を客観的に検証し、今後も継続・発展研究も視野に入れながら価値ある研究として充実させていきたいと考えています。