- 日時:2023年6月24日(土)16:00-17:30
- 司会:小玉 敏也(ESD-J代表理事)
- ゲスト:認定NPO法人 開発教育協会(DEAR)副代表理事・近藤 牧子さん
全国小中学校環境教育研究会顧問 棚橋 乾さん - プログラム
1. 開催趣旨、話題提供(小玉敏也代表理事)
2. 次期教育振興基本計画の特徴、改定のポイント(浅井 孝司ESD-J副代表理事)
3. 質疑応答
4. ゲストの発表
5. 意見交換
6. 総括コメント - 参加者人数:48名(司会1名、ゲスト2名、事務局3名含む)
まず、小玉代表理事より趣旨説明と話題提供を行いました。教育振興基本計画は、2000年代の初期から、第一期、第二期、第三期と立案・企画されており、主に自治体の教育大綱、教育計画の中で具体化されています。学校教育だけでなく、社会教育、家庭教育、様々な教育に影響している計画であるのに、一般的に関心が低いために、SDGsの実施方針を検討する会に出席した他団体に声を掛け、この基本計画をどう読んだら良いのかということを考える機会を持ちたいと思い、本日に至りました。
「次期教育振興基本計画」の概要
小玉代表理事の説明の要旨は以下の通りです。(詳細は資料を参考)
◆特徴は2つのコンセプト:
① 2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成
② 日本社会に根ざしたウェルビーイング*の向上
この下に今後の教育政策に関する基本的な方針が大きく分けて5つあります。
a. グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成(ここにSDGsの実現に貢献するESD等を推進が明記)
b. 誰一人取り残さず、すべての人の可能性を引き出す共生社会の実現に向けた教育の推進
c. 地域や家庭で共に学び、支え合う社会の実現に向けた教育の推進(コミュニティスクールとの連携・協働、持続可能な地域コミュニティの基盤形成とESD、SDGsに関連が深い文言が列挙されています)
d. 教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進
e. 計画の実効性確保のための基盤整備・対話
また、ESDは今後5年間の教育政策の目標と基本施策(第6番目)に位置づいています。ただ、ESDについての言及はあるものの指標にはなっていないです。
2023年1月にESD-JとDEARは答申に対し、意見書をそれぞれ文科省に提出しました。パブコメの締切りまでの時間が非常に短く、ESD-Jは十分に準備ができないまま提出した事が課題でした。DEARのパブコメの内容については、後ほど近藤さんからご説明があります。
「教育振興基本計画とESDについて」
次に浅井副代表理事より教育振興基本計画とESDがどう関わっているのか、教育振興基本計画の中にESDがどう表れてきたのかという変遷について説明されました。
新しい教育振興基本計画の特徴の一つは、ウェルビーイングというコンセプトで、※身体的、精神的、社会的に良い状態にあること、短期的な幸福のみならず、生きがいや人生の意義などの将来にわたる持続的な幸福概念と定義されていますが、「日本社会に根差した」というのは、協調的要素が非常に強いということです。
また、第三期教育振興基本計画では、学校段階別で書かれていましたが、横断テーマ性を持ったものにするために、学校段階別に言及することをやめたこと、加えて「つながり」を強く意識した方針が設定されたということが特徴的で、学校と地域社会とのつながり、それから産学官のつながりを強く意識したものであると言えます。
ESDについての言及は、2008年の7月1日に閣議決定された第1期の教育振興基本計画から入っており、第1期、第2期は、ユネスコスクールの加盟校増加を目指してESDを普及していく方針でした。第3期では、豊かな心の育成(初等中等教育段階)というところでESDの推進と明記があり、高等教育段階の問題発見・解決能力の取得というところでも、ESD推進を目指すと言及されました。第4期は、先ほど小玉理事から説明がありましたように、今後の教育政策に関する基本的な方針の中に位置付けられ、ESDは5年間の目標と基本政策の中にも一応入っています。ESDは非常に大きな概念ですから、教育全体を覆う概念、大きな柱として、普及していかなければならないと考えています。
<ゲストの発表>
「第4次教育振興基本計画」DEARによるパブリックコメント報告のまとめ
開発教育協会(DEAR)副代表理事・近藤 牧子さん
まず、近藤さんからは、設立40周年を機に整えた、ビジョン、ミッション、バリューの内容、そして中期重点方針2点についてご説明頂きました。
DEARの重点方針の1点目は、「開発課題をわたしたちの課題として捉え考える、そして行動をしていくような市民性、そして公共性の追求」、2点目が、「教育者中心から学習者中心の教育へというように、教育観の転換に向かう」ことです。DEARが提出したパブリックコメントには、上記の方針が反映され、以下の3つのポイントをベースに行われました。(詳細は資料参照のこと)
- 「現行の教育文化を前提としない」教育―具体的には、教師の役割・業務の見直し、人員配置の見直し、そしてルールに溢れる管理教育の緩和、そして欠如している人権教育・セクシャリティ教育の実施等についてです。
- 「持続可能性やグローバル人材」―経済強調の国家の持続可能性という観点で描かれていたため、それを地球的課題に即した持続可能性へという文脈に載せることを主張。グローバルシチズンシップの観点を強調。
- 「主体性」―管理競争教育を緩和し、”隠された”正解主義を変える、ルールやマナーを守る教育ではなく、それを自ら作る教育への転換。小手先の教育方法の問題ではなく、教育観や教育文化そのものの見直しという観点。
ESDの推進にあたっては、環境・開発・平和の3点のバランスを持った実践の推進が重要で、持続可能な社会の創り手の育成が、まさに教育方針であるはずですから、ESDの推進を教育方針として反映すること提案しました。
<個人的な総括の抜粋>
- 第4期教育基本振興計画では、課題として見るべき箇所の多くが俎上に乗りつつあるが、整合性の不安定さが目につきます。ESD施策一つをとってみても、他方針との一貫性がないです。
- 人が学ぶことは「権利」と言う観点の教育基本法から、国が教育政策を支配し、各都道府県や自治体に国の教育方針をおろしていくという思惑、教育の中央集権化を目指した改正を行った経緯があり、日本の教育方針が、経済を主眼とした人材育成=教育であるという考えに則っています。国の教育方針に係る審議会の部会長が経団連の副会長であるという事実がそれを裏付けています。
- 各地方自治体ではもちろん、振興計画に基づき独自の教育施策が作成されるので、不足している部分を補うことができますが、意識をしっかり持って取り組んでいる自治体と、そうではない自治体との格差が生まれやすいです。それぞれの地域でどのような方針・計画が立てられるのかをウォッチし、パブコメやアドボカシー活動といった市民活動が重要になります。
「次期教育振興基本計画に向けて」
全国小中学校環境教育研究会顧問 棚橋 乾さん
次期教育振興基本計画の基本方針の赤丸をつけた3つの方針には、ESDに複数個所、言及しています。(資料参照)この点は、非常に良いことと思います。是非この計画を基に各自治体が振興計画を立てるときに、きちんと活かしてほしいと思います。
学校教育のもととなる学習指導要領に、今回の教育振興基本計画がどの様に関わるのか分かりませんが、学校の現状をお話しします。学校では取り組まなくてはならない課題が多く、多忙です。そのため、教員の職務の範囲を見直し、専科教員や教務事務を担当する事務員を増やす等して負担を減らす事が必要です。また、総合的な学習の時間が十分に使われていない、探究学習が分からない、指導できないという教員が増えています。なぜかというと、OECDの加盟国の中で、児童生徒一人あたりの教育予算が日本は最下位で、1学級あたりの児童生徒の数が多いために、教員が生徒に気を配り、細やかな指導をすることが難しいからです。1学級あたりの生徒数を減らすことは絶対に必要なことだと思います。
加えて、教員自身の意識不足もあります。教員が、総合的な学習の時間を含めた探究学習などをしっかりと捉え、授業に活かしていこうと思っていないケースがあります。ESDは小学生からきちんと積み上げてこそ、中学生、高校生になって花開くものです。そういう視点で学習を捉え直す必要があります。また高校では学習指導要領が変わり、総合的な探究の時間というように名称が変わったことで先生方の理解が進みました。そのため、小中学校も総合的な「探究の時間」に名称を変えた方が良いのではないでしょうか。このような課題が学校ではあるので、振興基本計画がそれを解決する力になってくれたらと思っています。
<参加者から出た質問・コメント>
教育振興基本計画をどうするかという話よりも、今できた教育振興基本計画を受けて、今後私たちがどう動いていくのかと言うことについて、別途また文科省に意見を言っていただく、あるいは議論をする機会を作っていただくと良いと思いました。
総合は教員養成では必修にもかかわらず、棚橋先生が「若い先生方が探求する能力がないとか、教員が総合をする力がない」と仰いましたが、何か要因があれば教えて頂きたいです。
⇒回答:今までは自己実現を図る力を育てるという大きいテーマ一本で済んだのですが、もうそんな時代じゃないことを、先生方が理解できないとやはり取り組み易い方へ流れます。従来型のいわゆる認知的な基礎学力を育てるということと、非認知的な学習(探究学習で自分たちで悩み、協力し、出来上がったものを発信したり、行動したりする)体験、そこにESDを関連付けて指導する指導力を向上させる必要があります。
総括:新海理事(ESD-J政策提言WGリーダー)
この教育振興基本計画で学校現場や教育環境が大きく変わる事は難しいので、一体誰が変えていくのかというところは、私達NGOが可視化・言語化していかないといけないというように思いました。教員の資質、教員の待遇、教育環境の改善、授業の内容の変容、総合的な学習を「探究」に変えていく等、具体的に何が必要なのかを見せていかなければならないと感じました。また、自治体が教育関連施策を作る際に、どこの場面で参加ができるかということをウォッチしながら、自身が参加できなくても、参加していただく方に伝えていくことの大切さを実感しました。ESD-Jとしても、DEARさんをはじめ他団体と連携して声を上げる、情報共有していくことが必要かなというように思いました。
経済のことは大事だけれども、持続可能な社会を創り出す子どもたちを作っていきたいと私たちは思っているので、教育観を変えていくのは非常に難しいですが、共感し合うメンバーと言語化し、訴え、代替案を出していくっていうことを協力・連携してやっていかないといけないと思いました。ESD-Jの政策提言グループはまだまだ微力ですけれども、皆さんぜひ今後ともご協力のほど、宜しくお願いします。
参加者のアンケート回答結果は以下の通りです。(回答者24名)
◆セミナーの内容はいかがでしたか
大変良かった12名、 良かった9名、 普通3名
◆その理由をお聞かせください
学校の退職教員なので、棚橋先生の現場の声を広く参加者に聞いていただけたことがよかったと思います。
教育振興基本計画を様々な視点から分析したことで見えない課題に気づき、意味付けする機会となった。
新しい教育振興基本計画の概要は理解できたが、やはり、策定した文科省の関係者からの話を聞きたかったです。
◆車座トークに参加されての気づきや学びをお聞かせください
今回の計画に記載されたキーワードを生かして、経済と国家のための教育計画から、子どもと市民の権利保障の教育計画へ作り変えていくような実践を地域から展開する可能性があるのではないか。
車座トークに参加することで、これまで文科省の答申や計画について、ただただ読み込んで現場でどのように取り扱うか(いかにうまくやり過ごすか、どういう指標をつくれば「達成」したことになるのか等)の方策を考えることにのみ終始してきた自らの態度に気づくことができました。批判的に読み、パブリックコメントを提出しているみなさんの姿から大いに刺激を受けました。
改めて、大学における教員養成のあり方、教職大学院の問題点について議論する必要性を確認した。
◆今回車座トークに参加して、今後実践したいことはありますか。
身近な現場、教職員で意識を強化し、学び合える場を創出したい。
地域から計画を作る過程に参画、担当部局での「教育振興基本計画」作成について注視していきたい。
教育の基本に対する幅広い意味合い、解釈を意識した研修を行う。
◆講師へのコメント、ご感想等
教育により次世代のリーダーとなる子どもたちを育てていく使命を担うのは現場の教員です。教員自身が探求的な教材研究をできるゆとりを持てる仕組みづくりを提案してほしいと願っています。
これまで政策についての本質的な批判にあまり触れたことがなかったため、近藤牧子氏のコメントに深い感銘を受けました。また、鈴木克徳先生がコメントされた「(今回の計画は)すべての教育課程をつなぐ唯一の計画だ、全体をつなぐものはこれしかない」というご発言に、目から鱗が落ちました。